クライ・マッチョ

2021 アメリカ
監督 クリント・イーストウッド
原作 N・リチャード・ナッシュ

落ちぶれた元ロデオスターの老人マイクが、生活苦から抜け出すために金銭目当てでメキシコからアメリカまで少年を送り届ける仕事を引き受け、あれこれと苦労するお話。

ま、90歳超えた老人が主演を努められる役柄でないことは確かですね。

少年を送り届ける以前に、あんたが道中で倒れてしまわないか心配だ、って話で。

せいぜい60代までだろうなあ、この役をやれるのは。

なんせマフィアに追っかけられたり、暴力沙汰に巻き込まれたりもするんですよ。

常識的に考えて、いくら人の道をはずれたチンピラだって、90歳超えた老人をぶん殴るのはさすがに躊躇するでしょうから。

それでも大立ち回りをやらかした日にゃあ、どこまで悪逆非道なんだよ!きさまは!と意図以上にチンピラへ非難が集中する羽目になりかねない。

実際、イーストウッドが腕っぷしを見せつけるシーンとか、見ててヒヤヒヤしましたしね。

いやもうほんとやめてくれ、怪我したらそのまま寝たきりになっちゃうかもしれんだろうが!だめだって!と嫌な汗が脇の下を。

コミックっぽい演出でごまかしてはいましたけど、普通に立ってるだけでしんどそうな老人になにを強要してるんだ!と作品内容とは無関係なところで腹立ちを覚える始末。

ミスキャストなのは間違いない。

それでもイーストウッドじゃないと制作費回収の見込みがたたない、ってことなんでしょうけど、それが結果的には「イーストウッドだから許容するファン」しか取り込めない様相を呈することになってるように思います。

イーストウッドの活躍を知らない若い人が見たら「なんでこんな死にかけのおじいちゃんが主演はってるの?」ってなもんですよ。

どうあがいたところで違和感は拭いきれないですもん、作品のキャラクターとは所作や言動を含めた基礎体力が違いすぎるんだから。

ましてや見知らぬ未亡人と仲良くなって、いつしか恋仲になんて、年寄りの冷や水としか形容のしようがなくて。

あるんですよ、そういう場面が。

おばあちゃんと仲良くなって共に老後を、ってのならまだわかるけど、まだまだ現役そうな中年女性とラブラブって、それ多分ロマンス詐欺だから!とこっちが慌ててしまう。

主演をはるのは運び屋(2018)を最後にするべきだったと思いますね。

役柄と実年齢がマッチする稀有な作品はあの映画ぐらいでしょう。

ただね、色んな違和感や滑稽さをかかえながらも、少年とマイクが少しづつ心を通い合わせるようになる道行きや、老人がようやく安息の場所をみつける過程のストーリー運びはじわりと感動的でね。

こういう作劇をしれっ、とやらかすからイーストウッドはあなどれない。

終わってみれば、不思議な多幸感に包まれていたりするんですよ、ああ、みんな収まるべきところに収まって良かったね、みたいな。

そして感慨にふけるわけだ、ああ、イーストウッドの元気な姿がまた見れた、と。

なんかもうマジックだな、と思いますね。

これを成立させてしまうイーストウッドの生涯映画人たる怪物ぶりに脱帽、という他ありません。

幅広い年齢層にアピールできる作品じゃないと思うけど、何らかの爪痕を残す映画だと思います。

主演が90歳超えてる映画なんてザラにないのは確かですし。

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