LAMB/ラム

アイスランド/スウェーデン/ポーランド 2021
監督 バルディミール・ヨハンソン
脚本 バルディミール・ヨハンソン、ショーン

アイスランドの片田舎で羊を飼って暮らす夫婦が、ある日突然羊から生まれた羊ではないなにかを我が子のように慈しみ育てる怪異譚。

多分、我が子をなにかの理由で亡くしてるんだろうな、と私は最初に思ったんですけど、そこは想像通りで。

永遠に癒やされることのない心の傷を、羊ではないなにかをその代用として癒そうとするわけなんですね。

もうね、見るからに痛々しいわけですよ。

だって普通じゃないから。

周りに住んでる人がいればその異常性にストップをかける、もしくは、それは違うと諭すこともできるんでしょうけど、夫婦、ぽつんと一軒家に二人きりときた。

ひたすら純粋培養されていく狂気。

昏い安息が刹那的に二人を甘く、優しく包み込んでいく。

もちろんそこに未来なんかはない。

今、この瞬間の安らぎのためだけに盲目的な歪んだ愛情は加速していく。

いやーもう、マジで怖い。

こういう心理ホラー(サイコホラー)みたいなのって、強く記憶にこびりついてはなかなか忘れられなかったりするもんですしね。

いやなのに手を出しちゃったな、と。

あたかも、僅かな数の住人しか暮らしていない山間の集落で、おかしなモラル、信心がふつふつと醸造されていくのを目の当たりにしているかのよう。

で、私はてっきり最後の最後に羊ではないなにかの全身が映されるんだろうな、とよからぬ想像をたくましくしてたんですけど、なぜか監督は中盤であますところなくその姿を全見せしててですね。

うわっ、アカン、これほんまにアカンやつや!と顔を歪めたのは言うまでもない。

で、そこからですよ、難しいな、これは・・・と私が思ったのは。

怖さの核となるものが白日のもとにさらされちゃったんでね、以降は夫婦がなにをやってても悪い意味で「慣れて」きちゃうんですよね。

いくら不気味で禍々しくたって、それが妙に家庭に馴染んでちゃったりすると、不思議なもので「あら、意外と賢いのね」みたいな感じで可愛らしさを発見してしまったりする。

やばい、俺も取り込まれてしまってるのか、この異常な世界に!と焦ったりもするんですけど、あのギーガー作画のエイリアンですら、何度も見てるうちに恐ろしさよりむしろマスコット感を強く感じたりするものですから。

いや、これはこれでアリかもしれんな、どうせ周りに誰も居ないし・・・なんて思ってしまう。

そうなってくると、物語自体がスリラーではなくて全肯定の家族ドラマに変貌してしまうんですよね。

これも一つの形、なんて思いだしたらもう後には引けなくなる。

そしたら、だ。

最後の最後で監督はなんじゃそりゃ!と言いたくなるような大鉈を振るってきまして。

いやもうまさかここまで即物的なオチを用意してくるとは、思ってもみませんでしたね。

どうなんだろ、私は「そのままじゃねえかよ!」と思ったんだけど、このオチそのものに恐怖の源泉を見い出す人とかいるんでしょうかね?

うーん、わからん。

やたらセリフが少なくて、肝心なことは何ひとつ言わない想像力をあおる作風は好きですし、アイスランドの山間部の景色の美しさが異形との対比を際立たせていて独特だったと思うんですが、最後にスカされてしまった気がしますね。

際どくも怪しい現実味がギリギリでバランスを保っていたのに、ラストで急に作り物っぽくなっちゃったというか。

いささか評価に迷う作品。

これはこれでいいのかもしれないけど、前半の忌まわしさ、不穏さを振り返るなら、ラストは手詰まりだったような気がしなくもありません。

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