ファミリー・プレイ

アメリカ 2022
監督、脚本 コリー・デション

疑似家族の娘役を演じさせる目的で、謎の男に人知れず誘拐されてしまった少女を描く、サイコなスリラー。

ちなみに誘拐したのは疑似家族の父親役であるオッサン。

オッサンは自らを絶対的家長として成立するほかほか家族の構築(偽装)に余念がないんんですけど、怖いのは4人家族全員が「この家族は本物でない」とわかっていながらそれぞれの役割を演じていること、および偽装家族を完璧に作り上げることに躍起になってるオッサンの目的が、序盤ではさっぱりわからないこと、ですかね。

唯一わかっているのは、逃げ出したり、与えられた役柄を演じきれなかったらオッサンから処分されてしまうということ。

もうね、完全にサイコパス野郎です、オッサン。

一番逆らったら駄目なタイプ。

見進めていくうちに、どうやらオッサンは息子を一番大事にしていて、息子のために疑似家族を用意してるっぽいことに気づくんですけど、だからといってこの物語の異常性が少しも薄まるわけではなく。

外には毒ガスがたちこめているので決して家から出てはいけない、と真顔で命令したりするんですよ(最初は、えっ、SFなのか?と思った)。

で、そんなオッサンをどういうわけか息子は本気で信じていて。

IQ高そうなんですけど、閉鎖的な宗教団体で育った子どもみたいな浮世離れ感を強く漂わせてる。

そのような状況下で、少女はいかにしてこの狂った牢獄を抜け出すのか?が見どころなわけですが、中盤ぐらいまで見て、ああこれはヨルゴス・ランティモスの籠の中の乙女(2009)じゃないか、と私は思った。

もちろんデティールは違うし、誘拐とか物騒なネタは織り込まれてないんですが、この不穏さ、しらじらしさ、エスカレートしていく狂気はそっくりだな、と。

断言はできませんけどね、劇伴の使い方や演出がランティモスの影響下にあるような気もした。

で、そういう目線で見始めちゃうと、色々と詰めの甘さが気になってきたりもして。

とりあえず、何度も同じことを繰り返している(別の人間で)割にはオッサンの囲い込みが甘いなあ、とか。

これ、逃げられるんじゃね?と思える隙が散見されたり。

また、主人公である少女の「特別さ」がさっぱり際立ってなかったり。

一番拍子抜けしたのはオッサンの前で少女と息子が寸劇を披露した場面ですかね。

私がなにか見落としてるのかもしれませんが、舞台「ケンタッキーへようこそ」の意味も、内容も、やってることもさっぱり理解できなかった。

というか、ここはむしろ笑うべきなのか??と。

どう反応していいのか、真剣に悩んでしまうような突拍子のなさ、わけのわからなさなんですよ、すごく大事な場面なのに。

そのせいで終盤テンションダウンしてしまった、ってのは確実にある。

ま、最後まで見ると、おぼろげながらにオッサンが偽装家族を作り上げようとした理由もうっすらと見えてくるんですが、正直ね、リスクの大きさが見返り以上じゃねえのか、これ?と思ったりも。

嫌な余韻(想像性?)を残すエンディングは悪くなかったんですが、もう少し主人公の絶望を助長する用意周到さをオッサンは見せつけてほしかったな、と思いましたね。

不気味さ、得体のしれない怖さを見せつけるのに注力しすぎたか。

あえてフィルム撮影にこだわる以前に、シナリオの現実味をもっと吟味してほしかった、と思ったりしました。

嫌いではないんですけどね。

タイトルとURLをコピーしました