NEETING LIFE ニーティング・ライフ

2021年初出 筒井哲也
集英社ヤングジャンプコミックス 上、下

退職金と貯金を糧に、死に至るまでの引きこもり生活を選択した中年男性の、思わぬ事態の成り行きを描いた一作。

着眼点は面白かった、と思いますね。

「ニートだけど環境さえ整えば本当はできるやつだった」ないしは「転生して勇者になった」みたいななんの救いにもならない漫画や、エッセイ風の実録漫画と混同されそうですけど、実は全然違ってて。

本作における主人公は能動的にニートを選択し、高い計画性でもって自力で何もしない生活を満喫しようとしてまして。

その根底には現代社会で働き続けることの憂い、深い絶望がある。

最初から全部諦めてどうにかして甘い汁を吸い続けたいと願うこどもおじさんじゃなくて、頑張ってはみたけどなにもかもが無意味に思えてきたんで、全てを投げ売って全力で引きこもろうとするんですね。

なんかね、あーわかるわ、と私は思った。

主人公の気持ちは、同じ給与所得者として強く共感する部分がありました。

ああ、俺も若い頃、こんなクソみたいな会社に搾取されてたわ、確かに当時はブラック企業なんて言葉はなかった、と激しく頷いてしまいましたし。

なるほど、そういう形で工夫していけば二千万程の資金でアパートに引きこもれるのか・・・とつい真剣に読んでしまったり。

自殺死亡率が異様に高い国日本に暮らす多くの独身中年労働者にとっちゃあ、この題材は異様に響くんじゃないかと思いますね。

なんせノイズ(2018~)有害都市(2014~)と、立て続けに期待ほどではない内容だったんで(私的には、ですよ)、うーん、買いかぶり過ぎたか、と最近思ってた部分もあったんですが、今回は序盤からぐいぐい惹き込まれていく有様でして。

やっぱりうまいわ、筒井哲也。

下巻の展開にやや強引すぎるきらいはあるんですけど、まあ、これぐらいならなんとか許容の範囲内。

あと、主人公を陥れた人物の正体が明かされる場面で「いや、さすがにそこまでやる度胸はないだろうし、そんなに頭良くないだろ、こういう奴らは」と思ったけど、それもまあいい。

最終話がよく出来てたんで、御破算とすることにする。

エンディング、わかりやすいというか、ある程度予測はつくんですけど、それでもね、なぜ再び彼は立ち上がろうと思ったのか、その理由である小さな優しさに少なからず私は感動してしまったんで。

秀作だと思います。

短いながらも筒井哲也の魅力の詰まった一作だと思いますね。

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