予告犯

2011年初出 筒井哲也
集英社ヤングジャンプコミックス 全3巻

マンホール(2004~)以降、音沙汰の途絶えていた作者が突然ジャンプ改で連載開始、あれよあれよと人気を博し、映画化までされて、「だから言っただろう!筒井哲也はすごいって!」と当時1人吠えていたのが実は私だったりする。

2011年まで何してたんだよ!これだけのものが描ける実力があるのに、ああ、もったいない!とつくづく思ったものですが、ま、何らかの事情がおありだったんでしょう。

集英社は即戦力の大魚を見事釣り上げたな、ほんと。

前作も良くできてましたが、本作はさらに精度とドラマ性を上げてきてますね。

ネット上で派手な犯罪予告をして衆目を集めるカリスマを物語の題材にしたことが、まずはタイムリーだったと思いますが、その背景には正社員として働きたくとも雇用してもらえない非正規労働者の慟哭と怨嗟があった、としたのも実に上手で。

「炎上騒ぎに加担するのも、顔の見えない虚像に肩入れするのもまっぴら!」と思ってる人だって、がんばってもがんばっても報われない労働者の悲哀は伝わると思うんですね。

私はもういい歳をしたおじさんで、立場は違えど「なんでこんなに税金高くて給料安いんだ!」といつも思いますし、似た意味合いで、自助努力ではどうにもならない「選択ミスを許さない社会、失敗から再起できない社会」に牙を向きたくなる気持ちはよくわかる。

虐げられた主人公たちの状況に、まるで共感できない、って人はかなり少ないと思うんですよ。

また、主人公を含め、共謀する若い人たちがみんないい子ばっかりでね。

至極普通に、ごく真面目に頑張ってるのに、搾取され、弾圧される一方で。

序盤からぐいぐいドラマに惹き込まれていく自分がいる。

そりゃ、こんな目に合い続けたら牙を剥きたくもなるわ、ってなもの。

物語の最後を締めくくる、ある種どんでん返しと言ってもいいプロットの着地点も素晴らしい。

しかしこれ、どうするんだろうなあ、予告犯グループ「しんぶんし」として世の中に一石を投じる展開は面白いけど、結局最後は警察に捕まりましたじゃ、どこか尻すぼみな感じだしなあ、何らかの答えは用意しなきゃなあ、と思ってたら、そこへ落とすのかよ!ってなもんです。

まさか予告犯グループの最終目的がそんなところにあったとは!と、驚愕ですよ。

なんかもうね、ほんとは優しいだけじゃ駄目なんだけど、弱者にとって優しさを貫くのさえ合法ではどうにもならないのか、とひどく痛ましい気持ちになりましたね。

前作を楽々超えてきた傑作クライムサスペンスだと思います。

そりゃヒットするわ。

最後に待ち受ける、絶句もののオチに震撼してください。

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