2014年初出 筒井哲也
集英社ヤングジャンプコミックス 上、下
2019年以降のありえたかもしれない日本を舞台に、マンガ表現の規制を巡る動きを当事者目線で描いた社会派ドラマ。
オリンピック誘致がきっかけとなったコンビニからのエロ本撤去を端緒として、どんどん描けないことが増えていく新人漫画家の苦悩に焦点が当てられて物語は進んでいくんですが、まあ、言いたいことはわかる、わかるんだけど、斜陽産業化しつつあるコミック業界の現状と照らし合わせるなら、やっぱりこれは内輪ネタかなあ、と少し思ったりはしますね。
ベッドから足が出ている絵を描いただけで警察から呼び出しを食らった時代(そんなに昔じゃない、確か50年前ぐらい)を経て、先人たちがひたすら戦い続けてようやく手にした「表現の自由」が今また踏みにじられようとしてる、というのは理解できるんです。
なにも漫画に限った話じゃない、映画の世界だって文芸の世界だって、コンプライアンスがどうのこうの言われだしたあたりからどんどんおかしくなってきてますしね。
このままじゃあ、描きたいことも自由に描けなくなる日がきっとくる・・・という主人公及び編集者の危機感は一読者に過ぎない私ですらそのとうりだな、と思いますし。
なんせ未成年者の喫煙シーンや、シートベルトなしで車を運転してるシーンが問題になるぐらいですからね。
えっ、ごめん、バカしかいないの?と正直思う。
娯楽産業の首を、消費者自らの手で絞めているというね。
本書にも登場しますが、こうやって騒げば騒ぐほど大喜びするお抱え有識者、狡い政治家が居る、ってなぜあいつらは気づかないんだろう?とほんと思う。
ただね、表現の自由を盾に、やりすぎた部分は少なからずあると思うんですよね。
お前が描いてるその漫画は、神様手塚先生やトキワ荘組、24年組の闘争、苦労を踏まえた上で、本当に恥じることのない内容か?と問いたくなるようなクソが大手を振って大金稼いでたりしますからね。
その結果、若い世代からだんだん相手にされなくなってきるのが現在の漫画界の現状だと思いますし。
多分、何十年後かには少年ジャンプとマガジンぐらいしか漫画週刊誌は存在しなくなるんだろうなあ、と言う気がしますし。
つまり漫画という娯楽自体が、やがてはニッチな地下趣味化する、ってことだと思うんですよ。
表現の自由は確かに大事です、とてつもなく重要ですが、100人か200人ぐらいしか読んでないものが野放図で尖ってたところでね、世間の誰も気にしない、って話です。
影響力があるからこそ表現の自由も取り沙汰されるわけで。
ネットでほそぼそやってるような漫画が何をどうしようが大衆に相手にもされんわけですよ。
作者の気持ちはわかるんですけどね、やっぱりこれは現行の漫画作品として時代とちょっとズレてるな、と思います。
今、もっとも懸念すべきはどんどん衰退していく一方の業界をどう立て直すか、どうやって漫画はゲームに対抗していくか、だと思うんですよ。
鬼滅の刃の次はどうするのか?がなにより喫緊な課題だと私は思います。
あのクラスのヒット作が世に現れ、広く大衆に支持されたらうかつに規制もできんわけですよ、権力者も。
炎上したら、巡り巡って自分の得票に響いてくるからね。
目線を向けるべきは政府筋ではなく、出版社であり編集のあり方だと思いますね。
それを商業誌で描くのはさすがに無理すぎるかもしれませんが。
こと漫画界に関して言うなら、今大事なのは反骨ではなく再建ではないですかね。
あと、筒井哲也は仮想をもっともらしく描く想像力に乏しいのでは、という気が少ししました。
矯正プログラムはないわ、と思ったし、あと、この物語自体がありえたかもしれない日本である必要があんまりない。
これは充分起こりえるわ、マジで怖い、と思わせる鋭利さ、切迫性があまり感じられないんですよね。
なんかね、全部がそれぐらいのことはあるだろうな、で、予測の範疇。
また、主人公である新人漫画家が描いてる作品がなんともつまらなそうでねえ。
つまらないは大罪ですから。
新人漫画家が描いてる漫画を読んでみたい、という声がファンから殺到するぐらい劇中劇にはもっと力を入れるべきだったと思いますね。
表現者の情熱は十分に伝わってきましたが、そこに共感したいなら土田世紀の編集王(1994~)読むわ、って話だったりもしますし。
うーん、こういうのは引退前にでもやってほしかった、ってのが正直なところでしょうか。