2021 アメリカ
監督 テイラー・シェリダン
原作 マイケル・コリータ

つらい過去を抱えた女性森林消防隊隊員ハンナと、幼い命を狙われる少年コナーの決死な逃避行を描いたサバイバルアクション。
えー年配の女性と少年、というと、私の場合、どうしてもグロリア(1980)を思い出しちゃうんで。
いつまでもとらわれてちゃいかん、とは思うんですけど、物語のベースとなる骨格が同じだと、無意識に比較してしまう、ってのはやはり避けられなくて。
まず最初に失敗してるなあ、と思ったのは、ハンナの過去の痛恨事が、漠然と「人を救えなかったこと」に根ざしている点。
火事がすごすぎて、助けを求める民間人を見殺しにした後悔を、殺し屋に狙われる少年を救うことで贖罪とする、ってなわけにはいかないと思うんですよ。
職業上、誰にでも起こりうる不運を慰めるのはセラピーなり、宗教であって、警察が介入しなきゃどうにもならないような荒事に、あえて身を投げ出して盾になるのはまた違う形の献身だろ、と私は思うんですよね。
どうしてもハンナの過去を作中で起こっている出来事と連動させたいなら、少年の身に迫る危機は火災に強く関連すべきことにするべきだし、それが難しいなら、ありきたりな「つらい過去を抱えた女」などというキャラは捨てて、思わぬ厄介事に巻き込まれてしまったが、見捨てるわけにいかず渋々手を貸す女、といった体で物語を進めるべきだった。
ハンナが少年に対して、心の奥底ではどういう感情を持って接しているのか?が非常に見えにくい作りになっているんです。
それが代償行為なのか、単なる母性の発露なのか、よくわからないままシナリオが進んでいくんで、二人の関係性が発展していってもイマイチ盛り上がらない。
森林消防隊に殺し屋との攻防などという専門外の役割をふったのも、あまりよくなかったように思います。
何もできるはずがないんだから、はっきり言って。
もしなにかできるとすれば、火災から身を守ることがすべてであったはずで。
一応ね、最後にはハンナの得意分野へと誘導する仕組みになってはいるんですけどね、そこにプロならではのうんちくや知恵を生かした逆転劇が見当たらないものだから、ますます混迷の度合いは増していくばかりで。
森林消防隊である必要がまるでないじゃないかよ、と。
プロなのに、プロがプロとしての強みを発揮せぬまま肉弾戦に終始する、ってやっぱりおかしい、と思うんですよね。
変に「強い女」としてハンナのキャラを創造しちゃったものだから、殺し屋に対する未知の恐怖感や畏れが薄まってしまった、ってのは確実にある。
アンジーが主演なだけに、ヒロインアクションを意識しちゃった部分もあったのかもしれません。
うーん、登場人物それぞれのキャラクターや見せ場づくりは決して悪くはないんですけどねえ。
明らかに脇役な人物でさえ、血の通った人物像として描くテイラー・シェリダンの手腕はさすがだな、と思いましたし、錯綜するストーリーが群像劇としても成立していることには素直に感心しましたしね。
やはりハンナと少年をどう描くか?が、どこか浮足立ってる、と言わざるをえないですね。
ハンナには「私は消防士なのに、なんで殺し屋から子供を守らなきゃいけないのよ!」ぐらいのセリフは吐いてほしかった。
そしたらこの映画がグロリアに肉薄することもやぶさかではなかった。
前作、ウインド・リバー(2017)が面白かっただけに、残念。
物語の密度は濃いし、痒いところにも手が届いてる作品だと思いますが、主筋の取り扱いを見誤ったか。