ヴィクトリア

ドイツ 2015
監督 セバスチャン・ジッパー
原案 セバスチャン・ジッパー、オリビア・ニーアガート=ホルム、アイケ・フレデリク・シュルツ

ヴィクトリア

140分ワンカット、一切の編集なしで製作されたことが話題になったクライム・サスペンス。

思わぬ出会いから犯罪に巻き込まれる羽目になった主人公ヴィクトリアを描いた作品なんですが、単純に驚かされた、というのはありましたね。

いや、きわどいんじゃないか、と勝手に思い込んでたんです。

ところがどうしてどうして、ちゃんと映画として成立してる。

決して素人がただカメラを回して役者の尻を追っかけただけの作品じゃない。

そりゃバードマンみたいな計算されたカメラワークがあるわけではなく、どちらかといえばPOVに近いですが、それでもどの場面で何を見せるか、きちんと考慮、練られた痕跡がある。

しかも脚本はわずか12ページ。

他は全部役者のアドリブまかせ、というのだから、よくまあそんな大胆極まる冒険でここまでのものが作れたことよな、と。

これ、相当な打ち合わせを重ねてると思います。

勢いだけの一発勝負では絶対こうはならない。

で、そこまでの労力を費やして監督が何を表現したかったのか、というと、たった2時間でその運命を劇的に変転させてしまった主人公の数奇さ、だと思うんですね。

もちろん普通に固定カメラできっちり脚本も形にしてじっくり編集した後、1時間40分ぐらいで収めることも可能だったでしょう。

ですが作品を見終わった後で振り返るなら、それではこの生々しさ、リアルタイム感は表現できなかっただろうな、とも思う。

そういう意味では監督の着想はきちんと的を得て、結実しているように思います。

なんだかもう、ドキュメンタリーでもみてるかのような気になってくるんですよね。

舞台を見てるのに近い感覚、とでもいうか。

2度同じことは出来ない、とは思いますが、私はこれはこれでありだと思った。

テレビドラマシリーズの24にはまった人なんかは結構楽しめるんじゃないでしょうか。

多分、意図してるところは同じでしょう。

ピアノの奏者としてプロを目指したが、夢破れて異郷であるドイツに流れてきたヴィクトリアは、結局その心の内で本当は何を望んでいたのか、思いを馳せてみるのも一興。

POVが求め続けていたものがこの作品によってついに昇華した、という解釈もできるのではないかと思います。

なるほどまだこういう手もあったか、とちょっと新鮮でしたね。

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