ポスト・モーテム 遺体写真家トーマス

2020 ハンガリー
監督、脚本 ピーター・ベルゲンディ

第一次世界大戦後のハンガリーの寒村で、思わぬ心霊現象に遭遇する遺体写真家を描いたホラー。

まず、遺体写真家という職業が過去には存在していた、という事実がなかなかに衝撃でしたね。

各家庭に写真機が普及していない時代だと、身内が亡くなっても飾る写真がないわけで。

故人の思い出を残すために、遺体を着飾って死に化粧を施してやり、あたかも生前のスナップであるかのように家族一同が一緒に写真へと収まるシークエンスは、端から見てると相当に忌まわしく感じられて。

まるでなにかの儀式を見せつけられているような。

これは死が忌みであり、穢れであると考える日本人ならではの感覚なのかもしれませんが、大きくは社会の近代化がもたらした清潔感であり、サービスの概念が時代とともに進化、利便性を増していったことによるものなのかもしれません。

最近の子は魚に骨があるのを知らない(切り身しか食わないから)っていいますしねえ。

私自身、もういい年のおっさんだけど遺体そのものにお目にかかったことは数度しかないし、ましてや身内といえど遺体に触ったりしたことすらないものだから。

家族とはいえ、こんな風に接することができるものなのか?と。

なんか俺も結局は平和な時代のうすらとんかち(死語)なのかもしれん、と思ったり。

死が、生と同一線上に、日常として偏在してるんですよね。

当たり前のこと書いてるかもしれませんが、これを映像として淡々と映し出されると少なからずぎょっ、とする。

戦争の傷痕も癒えぬまま、スペイン風邪で大量の村人が死んだ田舎の寒村を描写する上で「遺体写真家」というキャラクターは強烈な現実味を喚起する働きを併せ持っていたように思います。

なんかもう、主人公写真家と村人の交流を描くだけでカンヌ狙える映画が一本撮れそうな。

むしろ前半の写真撮影シーンのインパクトが強かったんで、後半の心霊現象云々が蛇足に思えてきたぐらい。

本作のどの点が高く評価された(アカデミー賞ハンガリー代表)のかは詳しく知らないんですけど、この映画に限ってはあんまり派手でテンプレートなポルターガイスト現象とか演出しないほうが良かったような気もしますね。

前半の沈鬱とした静かな怖さだけでご飯一膳食える、というか。

そこは好みなのかもしれませんけど。

ま、ひとつ言えるのは、大風呂敷を広げて超常現象を釣瓶打ちした割にはオチがたいしたことなかった、ってこと。

これだけ大騒動を巻き起こしておきながら、その原因がコレかよ!みたいな。

いわゆるサスペンスで言うところの「犯人の動機が弱い」ってやつ。

惜しい、っちゃー惜しいんですけどね、一度死んだ少女と一度死んだ主人公の出会いの意味とか、導かれた理由とか、いいところに着眼してると思うんですが、いかんせん肝心のスペクタクルが大仰すぎというか、サービス精神豊かすぎで。

もっと小さな怖さで良かったと思うんですよ、あとから考えてみると怖いな、アレ、程度の。

こういう映画はね、できれば観客の想像力を膨らませる仕掛けにこだわってほしかったですね。

好きなタイプの映画なんですが、思ってた方向に行ってくれなかった一作。

悪くはないんですが、もう少しスリムでも良かったかな。

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