スティルウォーター

アメリカ 2021
監督 トム・マッカーシー
脚本 トム・マッカーシー、マーカス・ヒンチー、トーマス・ビデガン、ノエ・ドゥブレ

殺人の罪で、フランス留学中に逮捕された娘の無実を証明すべく、言葉の通じない中、異国にて単身奮闘するアメリカ人の親父の姿を描いたサスペンス。

あーまたここ数年のハリウッドのお家芸、家族愛ものか、と最初は思ったんですよ。

リーアム・ニーソンじゃないけれど、実は頼りになるパパを娘が再認識してめでたしめでたし、みたいな。

違った。

親父が想像してた以上にダメ人間だった。

いや、ダメ人間というとちょっと語弊があるかもしれないですけど、色々過去にやらかしていて娘からの信頼も薄く、いざ意気込んでフランスに来たのはいいものの、無計画でいきあたりばったりな行動に終始するような人物だった。

なんせ刑務所に面会へ行ったところで娘からは「パパは何もしなくていいからこの手紙を弁護士さんに渡して」と言われる始末。

で、実際にそれ以上のことができそうな感じでもない。

大金持ってるわけでもないし、事件の背景を探れるようなツテがあるわけでもないし、フランスに知り合いもいなければ、そもそもが通訳なしで意思疎通することすら出来ない。

いかにもアメリカ南部のオヤジってな感じで自分を曲げないし、歩み寄らないし、頑固なんですよね。

娘じゃなくとも「お前はいったい何をしに来たんだ」って言いたくなる有様で。

なんとかしたいという親の気持ちはわかるけど、あまりに無力で徒手空拳。

物語はそんな親父が、わずかばかりの協力者を得て、少しづつマルセイユという街に暮らす人達を理解していく様子を主軸に進んでいきます。

描かれているのは、オクラホマに居たんじゃ到底気づけないであろう人々の多様性であり、家族のあり方。

価値観の転換が親父自身に何をもたらしたのか、じっくりと丁寧に登場人物たちの心の機微を描写。

なんだかもう、娘のことは放っておいてお前はこのままフランスに住め、と言いたくなるような変革が親父の身に訪れるんですよね。

見てる側の心情としちゃあ、そのまま物語を閉じてくれって感じだったりもするんですが、そうは問屋が卸さないのは自明の理で。

娘が無実であることを証明できそうな事実を親父は手に入れてしまう。

興味深かったのは、あれほど欲していた無実の証拠が、現在親父が置かれている状況に照らし合わせるなら「余計な重荷」のようにも映っていること。

それは衝撃のエンディングにもつながっていて。

実は先進的で自由奔放だと思われた娘ですらかつての親父と同じ穴の狢だった、とでもいいたげなやるせないどんでん返しは、環境や育ちの違う者同士が相互に理解しあう難しさと、どうにもならない深い断絶を強く印象付けています。

家族(故郷?)は癒やしであり、救いにもなりうるが、呪縛でもあると再認識させられましたね。

ラストシーン、親父はこれからどんな風に生きていけばいいのか、まるで見えてこないのがなんとも苦々しいし、個人の無力感を助長。

そりゃ紛争の種はなくならわんわ、と思ったり。

アメリカの抱える潜在的なジレンマであり、我々自身にも心当たりのあるままならなさを突きつけた重厚な社会派ドラマと言ってもいいように思います。

さすがトム・マッカーシー、わかりやすいエンタメで結果オーライとばかりに手綱を緩めるような真似はしない。

救いの無さがそのまま問題提議につながる大作だと思います。

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