タコピーの原罪

2022年初出 タイザン5
集英社ジャンプコミックス+ 上、下

一般家庭に異物を放り込んでドタバタやらかす藤子不二雄黄金のパターンを逆手にとり、異物自身に、藤子児童漫画からは欠落していた「醜い現実」を突きつけた異色作。

同人漫画とかSNSですでに誰かがやってそうなネタではありますが、ふざけてパロディ化するのではなく、ひとつの物語として最後まで描ききったのはこの作品が初めてかもしれません。

そういう意味では大きく話題になるのもわかる。

しかしこれがウェブとはいえジャンプに掲載されるのか・・・すごい時代になったものだ。

なんといっても強烈だったのはドラえもん(キテレツでもチンプイでもなんでもいいけど)的役回りを担うタコピーが、現実を前にして恐ろしく役立たずである、と言い切ってる作劇でしょうね。

主人公は家庭にも学校にも居場所がないいじめられっ子の少女なんですけど、いかにドラえもんとはいえ、別れた旦那を妻のもとに戻して幸せな家庭を再構築するとか、いじめっ子が置かれている状況をまるごと改善するとか、できないわけだ。

もしもボックスがあるじゃん!ってツッコミがはいりそうですけど、あれはドラえもん本編ですら不成立にしかねない究極兵器で矛盾をはらんでると思うんで、この際除外。

まーおそろしく無能です、ドラえもん(タコピーだってば)。

それこそウメ星デンカ並みに無駄飯食らいでただ居るだけ。

お前はどこの国の純粋培養な金持ちのお坊ちゃんなんだよ!って言いたくなるぐらい夢みたいなことばかり言ってるし、愚鈍でバカなんですよね。

よくぞまあ国民的漫画家である藤子先生を、ここまでコケにするような漫画描けるな(なんせ主人公はしずかですし)・・とこっちが心配になってくるぐらい徹底的でシニカル。

挙げ句には、なにもできないタコピーを尻目に、ストーリーはどんどんシリアスに取り返しのつかない方向へ。

もうね、こんなの読みたくなかった、と途中で思いましたね、私は。

大人の都合で子どもたちがいかに苦しめられているかは知っているつもりでしたが、それでもドラえもんには、みんなみんなみんな叶えてくれる、不思議なポッケで叶えてくれる存在であってほしかった。

序盤で早々と、タケコプターなんて醜い現実の前じゃあクソの役にもたたねえ、と切り捨てられてしまうんですもん。

これはどう考えても救いがない、とこの年齢になって再確認するような作業をしたくはなかった。

SFどころかファンタジーですら表向きは全否定してますからね。

いったいどう落とし所を設けるつもりなんだろう、と嫌な予感満開で読み進めていったんですが、訪れたエンディング、ああなるほど、そうきたか、と。

それなりの救済は考えてたんだな、と。

だからって、良かったね、とはならない苦味は残るんですけどね、それまでのプロセスがプロセスだから。

ただね、物語の構造から考えるなら、救済は自己犠牲のヒロイズムによるものではなく、何も出来ないタコピーがもたらす「気づき」でなければならなかった、と私は思うんです。

気づきがあった上で、自己犠牲を積み重ねるのならわかりますが、自己犠牲が全部うやむやにしてしまうのはちょっと違うような気がするんですね。

順番の問題なのかもしれませんが、そうでないとたくさんのタコピーが地球に居ることの意味が見えにくくなってくる。

こんなことを言ってるのは私だけかもしれませんけど。

ま、どちらにせよ、衝撃的ではあったとは思います。

あんまり作画が達者な人ではないんで、一発屋で終わってしまいそうな気もしなくはないですが、ドラえもん世代(幅広すぎるか)は一読の価値ありでしょうね。

これを「原罪」と言ってしまうセンスや、映画的な構成は買う。

打ちのめされるのが苦手な人も是非(巻き添えにしたい私)。

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