2017年初出 宮尾行巳
講談社イブニングKC 全4巻
古い蔵で偶然見つけた木箱が500年前を覗き込むことのできるタイムスコープだった、というアイディアを核にした時間SF。
この物語のミソは
①木箱の中に手を触れて500年前の世界に干渉できる
②木箱の中に手を加えたことによって現実世界が改変されてしまう
とした点にある、といっていいでしょう。
ドラえもんのひみつ道具にそういうのなかったか?って感じではあるんですけど、どこか焼き直しっぽい印象を隠せないまでも「神の視座」を手に入れてしまった主人公の動揺、慌てぶりは読んでいて普通に面白い。
どっちかというと短編のネタだよなあ、と思わなくもないんですが、登場人物たちのドラマがちゃんとしてるものだから望外に引き込まれるものがあって。
初回でいきなり幼なじみが消えてしまう展開にしたのが巧いと思いましたね。
うわっ、こんなことして、最後に辻褄あうのか?大丈夫なのかよ?と俄然続きが気になってくるわけです。
引きが上手なんですよ。
そこは新人らしからぬ手管だと評価していいと思う。
いわゆるタイムパラドックスや、平行宇宙の解釈に目新しいものはなにもないんですけど、タイムスコープのアイディアひとつで時間と世界を掘り下げていこうとするスタンスは、SF好きとして好ましいものではありました。
おそらく、ロジックに破綻をきたさずに、過去をテーマとしてこういうことをやったのは藤子不二雄のT・Pぼん(1978~)ぐらいしかこれまでなかったと思うんですよ(犬夜叉とかあの系統のファンタジーは別として)。
惜しむらくは終盤の進行が駆け足気味だったこと。
人気が低迷したのかもしれませんが(最近の読者は読むのに頭使うのを嫌がるからなあ)慌てて風呂敷を畳んだ印象も否めず。
あと最大の難点は「五佰年BOXとは何であったのか?」が最後まで明かされなかったこと。
仕組みというか、その構造がどうなってるのか、全くわからない。
想像するにしても、与えられたヒントがあまりにおぼろげすぎるんですよね。
なぜ存在するのかがわかっても、なぜそうなってしまうのかがわからないと、ワンアイディアゆえにどうしてもモヤモヤが残ってしまう。
そこはタイムループで片付けちゃあいかんと思うんですよ、なにもかも出来過ぎだ、って話にもなっちゃうから。
欲を言うなら、神の視座を与える神の木箱なんだから、最後は神に言及するぐらいのSF的発想の飛躍が欲しかったですね。
新人で商業誌じゃ色々難しいかもしれませんが。
ともあれ近年、ほとんど見かけることのない実直な時間SFだったことは確かなんで、その手のファンは一読の価値ありかも。
漫画家としての力量は高いと思うんで次作に期待。
余談ですが岩明均に絵柄が似てるのは影響受けた、ってことなんでしょうかね?