1977年初出 小池一夫/正岡としや
小学館文庫 全6巻
刀ひとつ満足に振ることもできない非力な下男が、師を得て大きく変貌を遂げていく様子を描いた時代劇。
いわゆる立身出世ものと捉えるのがわかりやすいかと思いますが、物語の序盤で、主人公がとある人物の血縁者と判明することから、ゴールが見えにくい、ないしは実現可能とは思えない到達点を掲げてるように感じられて、素直にストーリーに入り込めないというのはありますね。
どう考えたって単身で実現できるような夢じゃないですし。
いくら有能でも下男あがりの無学な男がそこまで上り詰めるってのは、相当な幸運に恵まれてなきゃ無理、と思いますし。
というか私は、自死すらも厭わぬほど思い詰めた主人公が、貧弱な肉体でも戦える剣法を身につけて独り立ちしていく物語だと思ってたんですよ。
それこそ上がってなンボ!の太一みたいに。
そもそもが危ういわけですから、本来なら武士としてやっていける体力も体躯も併せ持ってないわけですし。
それが胎息の剣(剣技)を身に着けた途端、いきなり賢者、達人ですら到底成し遂げられぬだいそれた夢を語りだすんです。
周りの環境に憤った、師に後押しされた部分もあるんでしょうけど、もう人格変わっちゃってるんですよ。
1巻の主人公はいったいどこへ?って感じ。
中盤の展開なんて、もはや極悪非道とすら言っていいでしょうね。
こんな身勝手なやつ、見たことないわってなレベルで女が犠牲になっていく。
とにかく主人公のキャラクターが定まらない、というのが全編を通して言えていて。
終盤なんか公儀御庭番の頭領や甲賀忍者軍団のNO2とサシで駆け引きしたりしてますから。
いつの間にそこまで機転の効く胆力の座った男になったんだ、と。
エンディングがまた都合が良くてねえ。
お前に今更そんな幸せを求める権利なんざない!とマジで思った。
これまでの所業を顧みるなら、すぐさま頭丸めて坊主にでもなれ、と。
色んなアイディアをぎゅっと詰め込んだ意欲作だとは思いますが、とかく迷走気味というのが正直な感想でしょうか。
まあ風呂敷の広げ方が小池一夫らしいといえばらしいんですけどね。