1971年初出 山上たつひこ
小学館クリエィティブ
なんとも不思議な作品。
SFというべきか、ファンタジーというべきか、山上版「不思議の国のアリス」というのが一番近いかもしれない。
物語序盤は期待させるものがあったんです。
いきなり魚の化け物みたいなクトゥルー系の怪物に連行され、異世界の法廷にて裁かれる主人公。
裁判官は海亀みたいなの、検察も海産物系の異形。
招かれた目撃者はおたまじゃくし。
罪状は蛾のメスに対する殺人容疑。
これはいったなんなのだ、と。
仏教観的な側面から生類すべての命の尊さでも説こうというのか、と思わずページをめくる指にも力がこもる。
すべての生き物が人語を解する世界での、主人公少年の逃亡の日々と真犯人探しを描いた物語なんてこれまで読んだことがありません。
ちょっと異世界のルールづくりが甘いかな、とは思ったんですが、それでも中盤ぐらいまでは先の展開の予想できない緊張感があったように思います。
問題は中盤以降。
あっけなく真犯人の正体が割れたかと思いきや、都合よく元の世界に戻れてしまう少年。
そこから先のシナリオがもう、まるで別の作品で。
なぜ急にスラップスティックな調子でお笑いに擦り寄りはじめるのか、と。
最終回なんて滅茶苦茶。
伏線もこれまでの仕掛けもあったもんじゃなし。
集中力が途切れてしまったのか、描きたいことの興味が別に移ってしまったのか、これ、尻切れトンボといわれても仕方のないレベルだと思います。
ギャグ漫画家として広く認知される前夜の作品なんで、作者の中で連載中になにか変化があったのかもしれません。
色々惜しいものがあるとは思うんですが、やっぱり失敗作でしょうね。