1987年初出 小池一夫/叶精作
スタジオシップキングシリーズ 全36巻
キンゾーの上がってナンボ!(1984~)におけるサブキャラだった川端太一を主人公にした続編ゴルフ漫画。
こりゃ実際にゴルフやってなきゃ絶対わかんないだろうな、と思われるうんちくや雑学、考察は前作以上に豊富で、なおかつ多面的に掘り下げられてて、ほんと感心しましたね。
私はゴルフ門外漢なんで、ほう、そういうものなのか、といった感慨しかうけないですけど、普通のゴルフ漫画がここまでゴルフというスポーツを、ロジックとサイコロジーの両面から分析してる、ってことはまずないと思います。
もうほとんど指南書の域。
それでいて小池一夫がすごかったのは、登場人物たちのドラマを一切ないがしろにしなかったこと。
私がこりゃ新機軸だな、と思ったのは、これまで肉体的、精神的に常人を凌駕した超人ばかりを主人公にしてきた氏が、今回珍しくコンプレックスだらけの普通の人を主人公にしてること。
主人公太一は、体も大きくないし、非力なんで、プロになるのは無理だ、と言われてるんですね。
本人もそれを自覚してるんですけど、どうしてもプロの夢を捨てきれないんです。
小さく刻んでいくゴルフでパットの正確さだけを武器に、なんとか才能に恵まれた連中と戦っていこうとする。
できないことはできないと認めた上で、凡人なりに涙ぐましい努力を重ねていくんですよ。
これが共感を呼ばないわけがなくて。
もう、わかりすぎるほどわかってしまうわけですよ、太一の気持ちが。
特に私のようななんの才能もない凡人はなおさら。
ゴルフのことはわからないけれど、太一の真摯で愚直な挑戦の日々を見てるだけで思わず涙腺が緩んでくる。
奥さんである八重との深い絆が主人公の支えになってる作劇もいい。
八重はいわゆる大女で、太一とは蚤の夫婦と言われてたりするんですけど、おそらくね、八重は八重なりに自分の容姿に思うところがあるはずなんです。
それをおくびにも出さずにひたすら太一の成功だけを願って、夫をサポートする献身的な姿には幾度も胸打たれましたね。
なんて深い愛情でこの二人は結ばれてるんだろう、と感動することしきり。
いやこれ、ほんとゴルフ漫画か、と疑いたくなるほど劇的で。
また、羅綾やブレーキボールといった、ジャンプバトル漫画風の必殺技的アプローチをさりげなく忍ばせてるのもいい。
本当にある技術なんでしょうけど、ただプレイしてる様子だけではどうしても地味にならざるをえないゴルフというスポーツに動的なダイナミックさ、素人でも興味をそそられるとっかかりを上手に設けてる、と思いましたね。
全36巻というあまりの長さに手を出すのをためらってましたが、このシリーズはゴルフに興味がない人が読んでも十分楽しめると思います。
小池、叶コンビの最高傑作、ゴルフ漫画の金字塔じゃないでしょうか。
ちなみに物語は太一がプロテストを終える日で最終回を迎えてるので、きっちり完結した風ではないんですが、続きは新々上がってナンボ!で描かれてます。