機動旅団八福神

2004年初出 福島聡
エンターブレインビームコミックス 全10巻

うーん、この作品はほんと難しい、と思う。

まず、作者のやり口というか、作劇法が個性豊かすぎて単純に分かり辛い、ってのがひとつ。

福島聡は昔からそうなんですけど、余計な説明は一切しないくせに、やたら「事態が迎えた状況」に対しては饒舌で、ともすれば事象に対して突っ込んだ考察を滔々とやらかしたりもする。

いや、それ以前に読者は今何が起こってるのかよくわかってないから、って話で。

間違いなくカタルシスが得られそうな場面をあえてすっとばすのもお得意。

さあ、盛り上がってまいりました!ってところで突然ぶつ切りで次のシーンが描かれてたり、別の場面にあっさり転回してたり。

えっ?いや、もう何も語ってはくれないの?と読み手は呆然だ。

これ、結構紙一重ながらも、私は「独自のセンス」だと言えなくもない、と思ってて。

短編においては、この手法がやたらと活きる場面が結構あったりするんですよね。

なんか今、すげえ台詞回しじゃなかったか、と震えることもしばしば。

人によっては尻切れトンボとか、話が飛びすぎとか言われちゃうんでしょうけど。

確信犯的に、丁寧にわかりやすくは描いてやらない、と画策してるんだと思うんですが、あえて外すのも適所というか、時代性というか、タイミングみたいなものもやっぱりあるんじゃないか、と私は思うんです。

少なくとも、10巻にも及ぶ長編SF戦争漫画で自分の流儀を貫くのは、あまりに冒険だったような気がします。

作者の頭の中で完璧な絵図が出来上がってるのはよく分かるんですけどね、緻密に紆余曲折する濃度の濃い本作のストーリーを、読者にすべて伝えきるには恐ろしく敷居が高かったような気がしますね。

いや、あんた一見の客、招く気ないだろ、みたいな。

一回読んだだけで分からない部分とか、余裕でありますしね。

で、最大の難点はもう一度読み返してみよう、という気にならない点でしょうね。

読み返してみたところできっとまた煙に巻かれちゃうんだろうな、と思ってしまうんですよ、さすがに10巻まで変節しないまま終わられちゃうと。

近いところで言うなら、攻殻機動隊あたりと理解を掘り下げるための面倒臭さはあんまり変わらないと思うんですが、なぜ攻殻がヒットしたのにこちらは違ったのかというと、オタクに訴えかけるわかりにくさじゃなかったからでしょうね、物語の文脈というか道具立てが。

難度を棒グラフにするなら数値は近いと思うんですけどね。

中国に侵略された日本が安保条約を破棄したアメリカと事を構える物語の骨子とか、ありえたかもしれない未来を想像させて非常に魅力的なんですけどね、本作が人型強化スーツや遠隔操作ロボといったSF定番人気のガジェットを用いながらも、どこかぱっとしなかったのは作者の資質によるもの、という他ないでしょうね。

やりようによっちゃあ、余裕でアニメ化もありえたと思うんですが、そうならないのが福島聡なんだろうなあ。

つまらない、とは言いません。

決して嫌いではないんですが、わかりにくい部分、わからない部分を「どういうことなんだろう?」と読者の探究心に希求しなかった(できなかった)点が長編漫画として失敗だったか、と(めちゃくちゃ掘り下げて考察してるファンの方とかおられたらすいません)。

なんとなく、こりゃ映画でいうところのヌーベルバーグだな、と思ったりもした。

ヌーベルバーグだから人を殺さない部隊とか、世迷言同然の妄言がまかり通ってるのかもしれない、と考えたりもしました。

お膳立てのリアルさからすると、作者は本気で未来の戦争を分析していたのかもかもしれないですけど。

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