ザ・バニシング-消失-

ザ・バニシング-消失-

オランダ/フランス 1988
監督 ジョルジュ・シュルイツァー
原作 ティム・クラッペ

ドライブインで忽然と姿を消した妻を、3年に渡り探し続ける夫の顛末を描くサスペンス。

さて、消えた女を探すお話というと、古今東西に溢れかえっていてその歴史を追うだけでも一苦労だったりしますが、古いところだとヒッチコックのバルカン超特急(1938)やポランスキーのフランティック(1988)あたりが私は印象に残ってまして。

先達をなぞるような感じなのかなあ、と。

実際、中盤ぐらいまではさして裏切りもなく、予想の範疇からはみ出さない仕上がりでしたしね。

近年、リバイバル上映もされた衝撃作とのふれこみでしたが、2020年に驚くほどの出来ではあるまい、とタカをくくってる部分は私の場合、確実にあった。

この作品にわずかながらの意外性があるとするなら、犯人の面が早い段階で割れちゃってること。

観客は犯人がどのようにシュミレーションし、準備したのかのを描くシークエンスと、夫が妻を探すために右往左往する様子を同時に追っていくことになる。

つまりは、事件の首謀者が誰であるのか、その動機がなんであったかをオチにできないわけです。

いやこれ、大丈夫なのか?と。

最初からネタバレしちゃってるわけですよ。

この事件は誘拐ですよ、犯人はこんなこと考えてますよ、夫は手玉に取られてますよ、と解説しながらシナリオが進んでいくようなもの。

どうやって物語の結ぶつもりなのか皆目見当がつかない。

いやだなあ、丸投げされるんじゃないかなあ、そういうのは評価できないなあ、なんて不安に思いながら見進めること1時間、大きく物語が動き出すのは終盤に至ってから。

なんだこの展開、と正直驚かされましたね。

犯人が何をしようとしているのか全くわからない。

徐々に明かされていくのは「被害者が事件に直面したあと、なにをもっとも欲しているのか?」という心理面での実相。

恐ろしく周到で悪魔的な犯人の語りかけが、いつのまにかその立場すら変転させ、善悪をも塗り替えていきます。

すさまじく緻密な台詞回しに肌が泡立ってくる私。

なにかきっと他に打開の方法はあったはずなんですよ、なのに緊迫と迫真の会話劇が、人外に魅入られたかのようにすべてを惑わしてしまうんです。

そして迎えたエンディング、絶望の淵に叩き落されるとはまさにこのこと。

こうなるかもしれないとわかっていながらも避けられなかった夫の心情が、恐怖そのものに形をなして我々へと襲いかかってきます。

いや、これはマジで怖い。

こう来るか、としばし呆然。

キューブリックが絶賛したのも納得ですね。

侮っててすまなかった、文句なし傑作。

しかし、こんな映画が80年代後半にオランダから登場してたとは。

恐ろしく後味悪いですが、サスペンスよりのホラーと解するなら必見の1作と言っても過言ではないんじゃないでしょうか。

事件をどの角度から演出するのか、その着眼点に感服です。

高い評価に偽りなし、ですね。

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