1984年初出 三山のぼる
講談社モーニングKC 全6巻
悪魔との契約によって生まれた魔女、アルマと人間の関わり合いを描いた怪異譚。
1~2巻までが長編、3~6巻までが連作短編という変則的な構成になってますが、注目すべきは2巻を費やした長編でしょうね。
なんといっても主人公が凄い。
悪魔を召喚するために幼児を誘拐し、次々と血祭りにあげていくシリアルキラーなんです。
しかも子供を殺すこと自体に悦楽を覚える性的倒錯者でもある、ときた。
なんのシンパシーも抱けぬばかりか、吐き気を催すゲス野郎過ぎて最初からドン引きです。
これで読者の意表をついたつもりだったのだとしたら、とんでもない見当違いだし、あまりに考えなしすぎる。
1988年に東京、埼玉で起きた宮崎事件のあとだったら間違いなく発表できてないでしょうね。
編集も、これはちょっと商業誌向きじゃない、と止めろって話だ。
で、作者がとんでもないのはそんな連続幼児殺人鬼と魔女アルマとの恋にも似た心の交流を、殺人鬼目線で切々と描いてること。
いや、ちょっと待て、と。
お前になにか同情してやるような余地は1ミリもないから、って。
殺人鬼を哀れに思う魔女の内面もわけがわかりませんが、情け心に乗じて過去を清算しようとする主人公もクソ厚かましすぎてあっけにとられます。
一応ね、最後に、なるほどな、と納得のオチが待ってはいるんですけど、そこに至るまでのプロセスが被害者感情無視すぎてついていけない、というのが実状でしょうか。
その破綻こそが魔女のパーソナリティなのだ、と言われれば押し黙るしかないんですけど、それもねえ、後半4巻分の連作短編が台無しにしてる節がありまして。
各回で色んな人たちの抱える悩み事や、トラブルに魔女は介入していくんですけど、なんだかやたらいい人なんですよね。
弱きを助け、強きをくじき、悪には正義の鉄槌を、って感じ。
いやいやあんたそんな人じゃなかったじゃん!と。
多分作者はおろち(1969~)みたいにしたかったんでしょうけど、最初から読んでる読者からしたら人格破綻してるとしか思えないですから。
西洋的な忌まわしさを絵にできる稀有な漫画家だと思いますし、力量は申し分ないと思うんですが、やっぱりね、魔女の世直し行脚みたいになってしまっちゃあだめだと思うんですよ。
ホラーに徹すればよかったのに、と思いますね。
悪魔の存在を宗教的二元論に落とし込まない発想とか好きなんですけど、それが物語に活きなかった印象。
これだけの画力がありながらなぜトンデモ漫画になってしまうのか、惜しいの一言ですね。
評価を新たにするにはなかなか難しいものがあるシリーズだと思います。