アメリカ 1956
監督 アルフレッド・ヒッチコック
脚本 ジョン・マイケル・ヘイズ、アンガス・マクファイル
ヒッチコック、イギリス時代の監督作「暗殺者の家」を自らリメイクした作品。
いわゆる、巻き込まれ型サスペンスなわけですが、時代を反映してか、どことなくスパイものっぽい質感もあり。
登場するのは割と間抜けなスパイだったりはするんですけどね。
そこ、間違えるか!?みたいな。
で、結果的にスパイと関わってしまったせいで、主人公夫妻の息子が誘拐されちゃうんですが、もう完全にとばっちり。
降って湧いた災難とはまさにこのこと。
以降の展開は、なんの武力も手段も持たぬ一般人が、国家的陰謀と対峙せざるをえなくなる緊迫感あふれるもので、まさにヒッチコックの独壇場と言っていいでしょう。
また、誘拐された息子の親父が実に頑固で。
誰の手も借りずに夫婦だけで事件を解決しようとするんですね。
もー、やきもきすること請け合い。
リーアム・ニーソンだったらそれでもいいけど、あんたただの医者でしょうが!取り返しがつかなくなったらどうするんだ!と見てて気が気でない。
これを完全に監督の手のひらの上で踊らされてる、といいます。
圧巻なのは終盤の劇場におけるシーン。
ステージの演奏が登場人物たちのセリフをすべてかき消す中、ある種のサイレントにも似た表現手法でもって、犯人一味と夫婦の暗闘を絵だけで見せきります。
そこからの流れは怒涛。
ジャズバンドの専属歌手でもあった妻役ドリス・デイがピアノで歌う「ケ・セラ・セラ」をバックに、一気に物語は終局へと突き進む。
もう、このシチュエーションを考えついたというだけであたしゃ脱帽です。
「ケ・セラ・セラ」を選曲したセンスもお見事という他ない。
あの場面で♪なるようになるさ~、って、歌わざるを得ないってのがね、すげえ演出だな、と。
文句なし、傑作でしょう。
今の感覚で見ると、120分はちょっと長いかな、と感じるかも知れませんが、エンディングの素晴らしさがそれをすべて帳消しにしてます。
俄然、オリジナルも気になってきましたね。
ヒッチコック自身は「暗殺者の森」をアマチュアの傑作、本作をプロの傑作と言ってたらしいですが、見比べてみるのも楽しいんじゃないか、と思いますね。
後続は真似しまくってるな、と思った作品でもありました。
ファンのみならず、おさえておくべき一作じゃないでしょうか。