ムーンライズ・キングダム

アメリカ 2012
監督 ウェス・アンダーソン
脚本 ウェス・アンダーソン、ロマン・コッポラ

ムーンライズ・キングダム

わずか12歳の少年と少女の「駆け落ち」を描いたファンタスティックなコメディ。

ま、「駆け落ち」と言っちゃうと、なんだかちょっと生臭い感じですが、実際は両人を取り巻く環境からの足並み揃えた逃避行といった方が近いですね。

親であったり、仲間であったりに二人共不満を抱えて居るわけです。

そんな中、文通を重ねるうちに意気投合しちゃったものだから「じゃあ、一緒に逃げようか」と、話がまとまった、みたいな。

愛だとか恋だとか、本当に二人の間に存在するのかどうかは不透明。

「彼女が居ないと生きていく意味がない」とか、少年はいっぱしの口をきくんですが、それ、大人たちに対する反抗心から生じた思い込みでしょ?と酸いも甘いも噛み分けたご年配なら辛辣に言い放ちそう。

それは少女も同様。

なんせ12歳なもんだから、二人共無計画でして。

逃げたはいいが、住んでる島の人気のない入江でキャンプ生活ときた。

すぐ見つかります。

当然、引き離されます。

ところが恐るべき頑固さで2人は再びの脱走を企てる。

とまあ、ここまで見て、ああ、これは大人の無理解に対して、声なき声をあげるしかない子供の実力行使を描いてるんだな、と私は思った。

子供もまた一個の人格である、と。

アンダーソンが上手だったのはそれを過剰にベタつかせず、からっと「おませさんの冒険」風に作り上げていることでしょうね。

これ、もし現実に即してシビアに撮ってたら大変ですよ。

普通にアメリカの都市部が舞台だったら、やれカウンセラーだー、病院だー、妊娠してるようなことはないかー、相手の少年は告訴の上、接近禁止令だー、みたいな。

もう重苦しくて気楽に見てられない感じになったであろうことは間違いない。

そういう意味じゃあ60年代を舞台にしたことは巧みだった、と思うし、あえてリアリティを排除したことによって、大人の「下衆の勘繰り」が入り込む余地がなくなり、テーマの輪郭がより際立ったように私は感じましたね。

主人公たちが望んでいるのは至極単純なことなんです。

どうか私達をあなたたちの尺度ではからないでください、既成の枠に押し込めようとしないでください。

なにもだいそれたことは望んでいないんです、そのままを受け入れてください。

たったそれだけのことを、ここまで引っ掻き回してやらないと悟れない大人たちの頑迷さは、滑稽味でもって見事に浮き彫りになっていたように思います。

終盤で、ドタバタコントか!ってなハリケーン直撃シーンを用意してきたサービス精神もよかったですね。

この手の映画で、ちゃんと山場もありますよ、ってなかなかないんじゃないかと。

ブルース・ウィリスの情けない警官役、エドワード・ノートンの使えないボーイスカウトのリーダー役も、対比を念頭においた脇を固める布陣としては秀逸だった。

アンダーソンのすっとぼけた妙味が結実した、現時点での最高傑作じゃないでしょうか。

これまで、変だとか、よくわからない、で片付けられてたそれぞれの断片が、今作に限ってはカチリと噛み合わさっているような気がしましたね。

余談ですが監督は「小さな恋のメロディ」をこの映画のモチーフとしているようです。

うーん、見てない・・・。

こりゃチェックせねば、と思った次第。

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