イギリス 1938
監督 アルフレッド・ヒッチコック
原作 エセル・リナ・ホワイト
ヒッチコック、イギリス時代の傑作として名高い作品。
列車で同席していた老婦人が忽然と消えてしまうも、周りの人間は誰ひとりとして「そんな婦人は居なかった」と証言し、主人公である女性は大混乱、果たしておかしいのは主人公か?それともなんらかの陰謀が列車ぐるみで進行しているのか?ってなサスペンス。
いやもうね、普通に面白くてびっくりですね。
さすがに近年の手の混んだ鉄道ミステリには及ばないにせよ、ベーシックながらそそるプロットだというのは衆目の一致するところじゃないでしょうか。
さっきまで居た婆さんが消えるわけねえじゃねえかよ!と思いつつも、無関係と思われる人物までが「知らん」と言いはるんでね、これ、どう収拾つけるつもりなんだ?と俄然姿勢は前のめり。
第二次世界大戦前の不穏な世界情勢下で、人が嘘をつく心理をケースに応じて解き明かしていくプロセスがなんとも面白い。
主人公はほぼ孤立無援で、手助けしてくれるのが主人公のことをまるで信用してない風来坊な民族音楽研究家のみ、というのも巧みな設定だと思いますね。
もう全然役に立ちそうになくてですね、この男が。
どう見てもナンパ目的じゃねえかよ!お前!みたいな。
ストーリー後半で、ミステリからアクションへと物語の色合いを変える展開にも驚かされましたね。
えっ、これ、トレイン・ミッション(2018)じゃん!と。
ジャウマ・コレット=セラ監督がバルカン超特急を意識したのかどうかはわからないですけどね。
要は現代でも充分通用することを、昭和13年にしてすでにヒッチコックはやっていた、ということ。
脇を固めるキャラクター陣が多様に個性的なのもいい。
窮地に追い詰められ、どう抗するかを迫られた時、その個性が団結の中で生きてくるんですよね。
単に賑やかしというか、ユーモラスな演出のためだけに存在してたんじゃないと最後に知れる計算がなんとも心憎い。
挙げ句にナンパ目的としか思えなかった男までもが頼もしく見えてくるんだから、その計画性たるや流石の一言。
ま、若干ね、ゆるいところとかないわけじゃないんです。
そんなに簡単に人は意識失ったりしねえぞ!とか。
実際列車に乗るまでのくだりがやたら長かったりとか。
けど、細部にとらわれて全体を見通せないのは損だとこの作品に限っては言い切ることができる。
時代を考えるならここまでエンターティメントに徹してるって驚異ですよ。
なんせナチスドイツが駒として使われちゃってるんだから。
また前半のフリが終盤に至り、ラブロマンスとして開花してるのもお見事。
評判に偽りなしの名作だと思いますね。
面白い映画に必要なピースは全部そろってる。
モノクロだからと敬遠せず、ぜひ今の映画ファンにも見てほしい一作です。