1978年初出 吉田秋生
小学館フラワーコミックス 全8巻
厳格で、愛情表現の下手な弁護士の父親やエリートの兄に反発し、高校生にしてニューヨークで一人生きていこうとする主人公ヒース及び、その仲間たちの危なっかしい毎日を描いた青春群像劇。
24年組の影響下から長らく逃れられなかった少女漫画界において、エポックメイキングといってもいい画期的な一作だったことは間違いないでしょうね。
男子高校生が主人公で、男性生理があからさまに描かれているのにも驚かされましたが、異国を舞台とし、ニューヨークという街がどういう街なのか、その文化やアンダーグラウンドな裏側まで事細かに描写されているのには本当に恐れ入りました。
住んでたのか?吉田秋生?って。
当時、学生だった私はせいぜい映画でぐらいしかアメリカという国を知る由はなかったんですけど、映画よりも遥かに肌感覚なんですよね。
とても創作だとは思えないというか。
私がアメリカ社会における人種差別や、ドラッグ、ゲイ文化のことを市井の感覚で知り得たのはひょっとしたらこの漫画が最初だったかもしれない。
なんの実力もコネもない高校生が、アメリカの都会で生きていくというのはどういうことなのか、ここまで容赦なく赤裸々につづった少女漫画なんてこの作品以前に存在してなかったことは確か。
作者は少女読者に一切の幻想を抱かせないんですよね。
いくらあなたが待ち焦がれていても白馬の王子様なんてやってこない。
なぜなら白馬の王子様は、自分が生きていくための戦いでせいいっぱいだから。
だからあなたも自分の足で王子様を探しに出かけなさい、と。
これを80年代前夜に、20歳の漫画家が描いた、ということが驚愕以外のなにものでもありません。
はっきりいって、とんでもなく痛々しいし、わかりやすい予定調和やハッピーエンドとか一切ないんで、読んでて辛くなったりもするんですけど、これこそが現実だよなあ、と私は思ったりします。
特に元男娼のイーヴとかね、もう可哀想過ぎて、あたしゃ枕を濡らした。
お姫様たちに夢みる時間の終わりを告げた一作でしょうね。
少女漫画の流儀を逸脱してはいないんですけど、肝心の中身は男性読者でも絶句しそうになるシリアスさ、濃厚なドラマ性に満ちています。
傑作。
若い頃、ヒースと自分を重ね合わしたりもしましたね、私は。
コメント
[…] これがもし、主人公のアッシュをカリフォルニア物語のヒースのように演出していたなら、私はきっと大絶賛していたと思うんです。 […]