萩尾望都作品集 第Ⅱ期

1巻、2巻 百億の昼と千億の夜こちらのページ

1978年初出 3巻、4巻 スター・レッド

私の中で萩尾SFが完成した、と感じたのはこの作品から。
舞台は火星で、しかも超能力バトルものだったりして、これといって目新しい試みは特にないんですが、それでもなんだか異様におもしろい、と言うのが本作の凄いところ。
後半ちょっとストーリーを急ぎすぎたような印象を受けるのと、異星人の描き方がチープでステレオタイプなのがいささか残念ではあるんですが、火星と地球の戦いの勝者を物語の落とし所とせず、レッドとエルグの呼応する精神の行く末をエンディングに持ってきたウルトラCは、お見事の一言。
いい意味でSF的な想像力の飛躍を感じさせる大作。
よくある題材でも料理法が違えばびっくりするほど美味になるという好例。
そんじょそこらの漫画家に描けるシロモノじゃあありません。
おさえておくべき一冊でしょうね。
間違いなく当時の少年漫画より先に行っていたと思う。

1984年初出 5巻 ばらの花びん

表題作「ばらの花びん」はコミカルなフランス映画のようだ。
一部カルトなファンに絶大な支持をうけてそうな感じの。
洒脱で、しゃれてて、ユーモアがあって、ちゃんとドラマもおさえてて。
もう本当にこの頃の萩尾望都は手がつけられない感じですね。
何を描かせても極上。
併録の「ゴールデンライラック」は貧しさに追いつめられ、戦争に運命を翻弄されながらも懸命に生き抜いていくヴィーとビリーの姿を描いた大河ドラマ。
いや、こりゃ大河ラブロマンスか。
あたしゃこういう作品は敬遠する方だし、はっきり言って門外漢ですが、それでも本作には少なからず感動した。
SFが苦手な人にとってはこれこそ著者の真骨頂、と喝采をあげているかもしれない、と思ったりもする。
これまた傑作。

1978年初出 6巻 ウは宇宙船のウ

レイ・ブラッドベリ原作の小説を漫画化した短編集。
さてここで問題なのが、私はレイ・ブラッドベリの短編小説に決して明るくない、という現実でございます。
「華氏451℃」ぐらいしか知らないもんなあ。
原作がどうなのかがまるでわからないので、全作が萩尾作品の延長線上にあるように思えて、なんとも感想の述べようがない。
問題なくおもしろいんですが、そのおもしろさの所以がどこにあるのかさっぱり見当がつかずどうにもこうにも。
きっちりSFで高品質なのは間違いないです。
ファン以外にアピールできる物語の懐の広さは感じましたね。

1979年初出 7巻 恐るべき子供たち

ジャン・コクトー原作の小説を漫画化。
えージャン・コクトーなんて一度も読んだことがないわけでして。
普通に萩尾作品だよね、って感じてしまうことが作者の凄さなんでしょうけど、なんとも評価はしにくいですよね、やはり。
不穏でとげとげしく、重い内容なんですが、これはこれでちゃんと完成してる、と感じるあたり、自分のものにしていることは確かだと思います。
不勉強がこう言う作品に触れるとものの見事に露呈してしまうと思う今日この頃。
何を書いても悪あがきな気がするんでこれにて御免。
勉強しなおしてきます。
あえて付け加えるなら、読み応えがあるのは間違いなし、ってなところでしょうか。

1980年初出 8巻 訪問者
<収録短編>訪問者/25人のジュリー/デビッドボウイinブドウカン/城/偽王/花と光の中

「訪問者」はトーマの心臓の主要キャラ、オスカーがギムナジウムにやってくるまでを描いた前日譚。
これがもう優れたアメリカンニューシネマを見ているかのような大傑作
個人的にはトーマの心臓より断然おもしろい。
心が震える中編。
この頃の筆力でトーマの心臓を描いていたらものすごい作品になったのでは、と夢想したりする。
手がつけられない感じですね、うますぎて。
「城」は孤独な少年が少しづつ成長していく様を寓話風なシーンを交えて描いた佳作。
作者お得意のパターンか、と思いますが、実によく出来ているのは確か。
何故か若い頃、やたらこの短編が好きでしたね。
「偽王」はシリアスなファンタジーとでも言えばいいのか。
暗喩的。
いまひとつ物語を噛み砕けぬ自分がいる。
正直よくわからない。
「花と光の中」はルーイという神経質な少年の妄想を描いた作品。
もう本当それだけ。
こういう作品を妄想で終わらせてしまうあたりが、オッサンということなのか、と思ったりもしますが。
「25人のジュリー」と「デビッドボウイinブドウカン」はエッセイみたいなもの。
「訪問者」だけで充分購入の価値ありな一冊ですね。

1984年~初出 9巻 半神
<収録短編>半神/ラーギニー/スローダウン/酔夢/花埋み/紅茶の話/追憶/パリ便り/ハーバルビューティ/あそび玉/マリーン(原作:今里孝子)

舞台にもなった衝撃の短編「半神」。
これがもし、ブラックジャックの一話なら「快楽の座」や「植物人間」のように封印されたりしたんだろうか、と言う思いがちらりと頭をかすめたりもしますね。
色んなところで色んな人がこの作品について論じておられますが、私がすかさず思い出したのはデ・パルマの悪魔のシスターであり、クローネンバーグの戦慄の絆であったりしました。
何を描こうとしていたのか、おおよその見当がつかなくはないんですが、やっぱり短編で伝えきるにはページ数が足りなかったか、と言った印象。
せめて100ページあればエンディングも変わっていたように思います。
強烈な読後感を残す作品ですが、どう評価していいか悩む部分もあったりも。
「ラーギニー」「スローダウン」「酔夢」はイマジネーション豊かなSF短編。
マンガならではの絵の説得力が光る。
「花埋み」「紅茶の話」「追憶」「パリ便り」は絵物語。
「ハーバルビューティ」はコメディ調の宇宙SF。
 きちんとSF的なオチが用意されているのが好ましい。
「あそび玉」はいわゆるエスパーものなんですが、地球へ・・の萩尾版を読んでいるような感じも。
一番の異色作は「マリーン」。
間違いなく萩尾望都はこういう演出はしないと思われる描写があちこちにあり失笑。
原作つきだとこうも違うのか、と驚かされる。
くさくならない、と言うのが萩尾望都最大の長所かも知れない、と本作を読んでいてふと思ったりしましたね。
それでもエンディングはきっちり自己流に手直しされており、感心。

1980年初出 10巻 銀の三角

少女マンガを軽く見ている人、侮ってる人、嫌悪感のある人にまず何としても読んで欲しい一冊が、この銀の三角だったりします。
とはいえ掲載紙はSFマガジン。
厳密には少女マンガというより、SFファンという厄介な人種にむけて書かれた女流漫画家の作品であったりするんですが、そのせいで萩尾望都らしさがブレてるわけではないのでそこにはこだわる必要はないでしょう。
むしろSFを描く上で制約にとらわれず、自由にペンをふるった作者の真価が発揮された乾坤一擲の一作、と私は一押しする次第。
異論はあるとは思いますが、私の中では今日に至るまで萩尾望都最高傑作。
この作品を読んだことによって私は大きく少女マンガに傾倒。
 SFのみならず、漫画表現という意味合いにおいて実は女性の方が本当は向いてるのではないか、とすら当時は思いましたね。
正直読みにくさはあります。
余計な説明は排除されている上、少女マンガの表現手法にのっとって描かれたものであるので、男性誌のマンガに慣れ親しんでいる人はコマを追うだけで一苦労かもしれません。
しかしそれでもがんばって読み進めていく価値は充分にあります。
遥か彼方の宇宙を舞台に、失われた星への思慕を歌う一大叙事詩。
すべてが収束する無常観あふるるラストに驚愕してください。
あらゆるSFマンガのオールタイムベスト10には確実にはいる大傑作

1980年初出 11巻~14巻 メッシュ

上手に愛情表現できない厳格な父親と、その父親に反発する主人公メッシュの青くてモラトリアムな日々を描いた作品。
過去の作者のパターンだとこの手の主人公はギムナジウムにいれられて周りと一悶着起こすはずなんですが、今回は奇特な芸術家ミロンの下宿に転がり込んで同居、というシチュエーション。
過去作のように読者を打ちのめす痛々しさ、重苦しさはやや希薄で、ミロンを通じて一話完結で外の世界に触れて変わってゆくメッシュの様子が、当時のパリの街に生きる若者の姿としてリアルに描かれてます。
コメディ調な演出もちょくちょくあって、それほどかまえなくとも読めるのがいい感じ。
なんだか私は妙にこのシリーズ、好きでしたね。
親和性の高さ、と言う意味では多くの萩尾作品の中でトップクラスかもしれません。
適度にゆるいにもかかわらず、手がつけられないぐらいうまいのにほとほと感心ですね。
当時読んでいて、優れたヌーベルヴァーグでも観ているような気になったものです。
オススメの一作ですね。

1982年初出 15巻 モザイク・ラセン

「主人公が繰り返し見る夢は異次元への世界の扉だった」ってなキャッチコピーがつきそうな異世界ファンタジー。
ロードオブザリングとかあの手の作品が好きな人ははまるかもしれません。
悪くはないし、プロットもしっかりしてるとは思うんですが、掲載紙がプリンセスと言うこともあって、読者の対象年齢は低めに設定してある感じ。
まあ萩尾望都ならこれぐらいは普通にやるだろう、と。
あまりにも強烈な創造性を誇る作品が多いので、熱烈なファンは若干拍子抜けしてしまうかもしれませんね。
親しみやすいとは思います。

1977~84初出 16巻 エッグ・スタンド
<収録短編>エッグスタンド/アムール/人生の美酒/天使の擬態/影のない森/十年目の鞠絵

すべてをチェックしているわけではないんですが、数ある萩尾望都の短編の中でも最高峰と言っていいのがこの「エッグスタンド」ではあるまいか、と私は思っていたりします。
もしこの作品を劇場で見てたりしたら、あたしゃ間違いなく人目をはばからず号泣してたでしょうね。
美しくも残酷で、救いがない物語なんですが、その質感のリアルさたるや神がかり的。
大傑作。
微塵の隙もなし。
この短編の為だけに購入して損はなし。
「アムール」「人生の美酒」は絵物語。
「天使の擬態」は珍しく日本を舞台にした恋愛ドラマ。
結構重め。
「影のない森」「十年目の鞠絵」は掲載紙がビッグコミックという珍しいケースで、オッサン読者を意識した作風が興味深い。
何でも描けるなあ萩尾望都、と感心。
充実の一冊ですね。

1981~84年初出 17巻 A-A’
<収録短編>A-A’/4/4/X+Y

宇宙時代に適した人間を産み出すために人工的に遺伝子操作をされた変異種、一角獣種をめぐる連作シリーズ。
3作が収録されていますが、表題作「A-A’」がやはり一番インパクトがあるかも。
一角獣種という変異種をあえて主軸とすることなく、そのクローンに受け継がれる感情に着目したストーリーはまさにSFでしか描けないドラマであり、ロマンチシズムだ、と思った次第。
着想も素晴らしいんですが、短編らしい鮮やかな物語の帰結もお見事。
これも萩尾SFのある種の到達点のひとつだと思います。
「4/4」「X+Y」は可もなく不可もなく。
 若干自分の得意な方向に物語を誘導しちゃったか、ってな感もなきにしもあらず。
まずは表題作を。

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