山岸凉子 あすかコミックス5冊

1987年初版 時じくの香の木の実
<収録短編>常世長鳴鳥/青海破/副馬/天沼矛/水煙/時じくの香の木の実

「常世長鳴鳥」は体が弱く美しい姉と健康だが凡庸な妹の愛憎劇を描いたサスペンス。
過去に似たようなテーマの短編がいくつかあったような。
お得意のやり口かと。
「青海破」は見えざるものの存在を暴き立てるわけでもなく、恐怖するわけでもなく、そこにあるものとして淡々と描いた秀作。
詩的だと思ったりもする。
「副馬」はほとんど日本昔ばなし。
特に記することもなし。
「天沼矛」は三部作構成になっていて、古い短編だが三色すみれを思い出したりもする。
特に共通するテーマもないように思うが、まあ、退屈はしません。
「水煙」はお姫様にあこがれる少女の心理を代弁するストーリー、といってよく、舞台が古代で主人公は大王の御落胤、という設定。
いかにも日出処の天子以降の作品らしい感じ。
「時じくの香の木の実」は俗に言う霊媒であり、巫女であるミステリアスな存在を作者独自の解釈をまじえ別の視点から語った秀作。
タイトル作だけあって一番読み応えがあるかも。
らしい短編集、といった印象。

1988年初版 パエトーン
<収録短編>グリーンフーズ/キメイラ/月の絹/パエトーン

「グリーンフーズ」は落ちぶれた子役が、容姿の冴えぬ妹の美声を利用して兄弟デュオとして再起をはかろうとする物語。
 各人のエゴやら悪意やらが錯綜する作者らしい嫌な一作なんですが、これ、勝手な想像なのだけれど、どうしてもカーペンターズの悲劇を思い起こさせたりする。
もちろん実話なんて事はないのだろうし、着想のヒントになった程度なのでしょうが、なにかと興味深いですね。
「キメイラ」はサイコキラーもの。
良くできてます。
オチといいプロットといいガジェットといい完璧だと思う。
昨今のリメイクだらけのアメリカンホラーも過去の焼き直しに頼ってないでこれぐらいはやっていただきたい、と思いすらした。
「月の絹」は山岸凉子のおしゃれや料理、男とのつきあい方などを作中のキャラに代弁、対話させたエッセイみたいなもの。
 ファッション系の女性誌にこそっと掲載されてそうな内容。
「パエトーン」は原発に関する考察、意見をマンガの形式を借りて述べたもの。
この頃から声をあげていた人はたくさん居たのに、結局痛い目を見ないことにはわからなかった政府や電力会社にあらためて憤りを感じたりしましたね。
バラエティに富んだ一冊。

1987年初版 瑠璃の爪
<収録短編>瑠璃の爪/鳥向楽/海底より/ある夜に/木花佐久夜毘売/あらら内輪話

「瑠璃の爪」はかつて発表された短編、常世長鳴鳥とほぼ同じ内容。
お好きなんでしょうね、こいういう題材が。
無意識下の悪意に焦点を当てている分、こちらのほうが重厚か。
「鳥向楽」は仏教的世界観を地球の創世から人の誕生にまで照らし合わせ絵解き物語風に綴ったもの。
実験性がまだ見ぬスタイルとして昇華している、といいたいところなんですが、微妙なところ。
「海底より」「ある夜に」はあやかしの館(小学館刊)黄泉比良坂(秋田書店刊)に重複収録。
「木花佐久夜毘売」は瑠璃の爪、常世長鳴鳥と同系統の作品。
救いがあるかないか、だけの違い。
「あらら内輪話」はエッセイ。
気楽に読める内容。
かつて読んだ短編があったことも影響してはいるんですが、幾分低調気味であるように感じられた一冊でしたね。

1987年初出 私の人形は良い人形
<収録短編>わたしの人形は良い人形/黄泉比良坂/星の素白き花束の

若い頃読んで震え上がったのが表題作「わたしの人形は良い人形」。
あらためて読み返してみても変わらず背筋にぞわぞわくるものがあって、これはもう本当に怖い。
日本人形を道具立てに使ったホラーとしては出色の出来ではないでしょうか。
かつてのJホラーブームでよく使われた連鎖する恐怖がすでに本作にて完成していることにも舌を巻く。
この中編は本当に怖いです。
稲川淳二の怪談話、生き人形とタメをはる。
「黄泉比良坂」は黄泉比良坂(秋田書店刊)に重複収録。
「星の素白き花束の」はグリム童話、驢馬の皮を題材に、ゆがんだ性に禁忌なく身を任せる少女の内在する美醜を描いた秀作。
忌まわしくも美しい断絶、って、それがつまりはお耽美ってことなのかもなあ、とふと思ったり。
読み応えのある一冊です。
表題作だけで購入の価値あり。

1987~89年初出 奈落
<収録短編>コスモス/死者の家/奈落/銀壺金鎖/夜の虹

「コスモス」「死者の家」は男の浮気を題材に壊れていく家庭や人を描いた短編。
似たような話が過去いくつかあり、既視感を覚えることしきり。
「奈落」のテーマは兄弟間のコンプレックスで、これまたお得意のパターン、焼き直しな印象。
「銀壺金鎖」は異母兄弟がそれぞれの視点から不遇だった自分達の過去を振り返るという、ある種のオムニバス形式でストーリーを構築した短編だが、どこかまとめきれなかった印象。
「夜の虹」はエッセイ。
全体に低調な1冊ですかね。
熱心なファン向けでしょうか。

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