トンネル奇譚

1997年初出 伊藤潤二
朝日ソノラマ眠れぬ夜の奇妙な話コミックス

<収録短編>
長い夢
トンネル奇譚
銅像
浮遊物
白砂村血譚

さて今回も絶好調、伊藤潤二。

収録されている5編、どれも甲乙つけがたい出来でハズレ無し。

個人的に一番気に入ったのは、日に日に見る夢が長くなる男を描いた「長い夢」。

普通に眠っているだけなのに、夢の中では数百年、数千年が経過していて、それはやがて永遠の夢に至る、という発想がもう、こういう切り口もあったのか、って感じですね。

仮想現実を描いているのとはまた違うというのがこのお話のミソ。

本格SFにも匹敵する創意があるようにも思いますね。

「トンネル奇譚」は飛び交う幽霊という着想がなんとも斬新。

呪われたトンネル、って題材そのものはどこにでも転がってるネタだと思うんです。

そこに幽霊を高速で移動させる、というアイディアが作者ならでは。

幽霊ってのはひっそり佇むもの、という概念を根本からひっくり返しただけでも私は賞賛に値すると思います。

「銅像」はどことなく江戸川乱歩の怪奇ものを読んでるようなおどろおどろしさ、耽美さが良。

空疎な後味を残すエンディングも秀逸。

「浮遊物」は昔の少女向け怪奇漫画っぽいネタながら、シナリオの転がせ方のうまさ、なにやらセンチメンタルなオチが小憎い感じ。

うまいなあ、ほんとに、とニヤリ。

「白砂村血譚」はありがちな閉鎖的山村の怪異にみせかけて、実は搦め手な吸血異聞というアクロバティックな一作。

私なんかは、え?きりひと讃歌?と一瞬思ったんですが、全然違った。

暴かれた真相のとんでもなさに想像力をガンガン刺激されることは間違いなし。

文句なしの1冊ですね。

まさに手に負えないおもしろさ、ホラーファン必読でしょう。

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