アメリカ/ブラジル 2019
監督 ロバート・エガース
脚本 ロバート・エガース、マックス・エガース

短期間で高収入を得るために灯台守の仕事に就いた新人青年と、職場の先輩であるじーさんの閉鎖的な環境における毎日を不穏に描いた異色作。
なぜかこの作品、アスペクト比が正方形です。
箱の中を覗き込むような感覚を味わってもらうために・・などと、どこかに書かれてましたが、それが監督本人の言質なのかどうかは確認できませんでした。
箱の中なあ。
私はあんまりこの手のギミックが好きじゃないんで、別に普通に横長でいい、と思うんですが、ま、あれこれ感じ入る方々もおられるんでしょう。
ストーリーそのものは会話劇中心に、焦らずじっくりと進行していきます。
というか、登場人物がウィレム・デフォーとロバート・パティンソンしか居ないんで、ほぼ二人芝居といっていい。
物語が大きく動き出すのは終盤なんで、それまでに振り落とされてしまう人も大勢いるのでは、と思ったり。
口さがない言い方をするなら、じじいが昼間は新人いじめで憂さ晴らしして、夜には酒盛りしてる場面の繰り返しで軽く1時間経過、と言えなくもありません。
もちろん新人青年はそんな状況下に置かれてちゃあ、どんどん鬱屈してくる。
おかしな夢を見たり、発作的な行動に出たりするようになるんですね。
前半は「青年の狂気が育まれていく様」に細かく神経使ってる感じ。
で、物語にはいくつかの謎が散りばめられてるんですけど、一番の謎が「絶対に灯台最上階にある照射灯には近づくな」とじーさんが青年に厳命してることなんで、終盤までの引きが弱い、というのはあるかもしれません。
最後まで見ると、予想外の急展開に、あ、これ一応どんでん返し系にあたるのかな、と気づいたりもするんですが、はっきりいって「だから結局どういうことだったんだよ!」とひどく混乱するエンディングが待ち受けてたりもしまして。
とかく観念的で抽象的なんですよね。
もちろん想像することはできますが、その想像にすら的確な解はない、と突き放してるのが特徴で。
ストーリーのベースとなったのが、エドガー・アラン・ポーの未完小説と、1801年に起こった実際の事件らしいんですが、もうね、そう言われたところでわからんもんはわからんよ、としか言いようがなくてですね。
おそらく、いったいどこまでが現実だったのか、虚実ないまぜに、少しづつ壊れていく青年の心理を描きたかったんでしょうけど、普通に難解です。
見終わったあとであれこれ情報を仕入れて、なんとか自分なりの解釈を成立させてみたりはしたんですけど、それで唸らされたのか?というと実はそうでもなくてね。
うーん、これってもう本当に映画を知り尽くした識者のための作品、って気がしますね。
すごく高いステージで辣腕ふるってるのは理解できるんですけど、監督が提示した難題をひとつづつ答え合わせしていくことに快楽を見出すタイプの人向きなのでは、と思いますね。
わかりやすくてエンタメなのが一番!ってわけじゃないですけど、モノクロでここまで挑戦的なことやられると単純にしんどい、ってのはある。
神話なんかもヒントにしてますよ、ってことならなおさら。
前作、ウィッチ(2015)の出来が良かっただけに、こういう方向へ行ってしまうのか、と少し残念。
ウィッチには適度なエキセントリックさとスリルがあって、これはホラー/スリラーでありながら濃密な人間ドラマでもある、と感心したんですが、今回はキャッチーな部分をあえて全部削ぎ落としてきたような気がしますね。
そりゃカンヌはこういうの好きだろうな、と思う。
ちょっと話が飛ぶんですけど、2017年に発表されたコールド・スキンって作品があるんですけどね、似た題材、設定なら、私が面白いと思うのはこっちの方でして。
そういうことじゃない、って否定されそうですけど、興味がある方は見比べて欲しい、と思います。
私と似たような嗜好性を持つ方にとっては、なんだかもやもやする109分だった、で終わる可能性も無きにしもあらず。
印象的なシーンはたくさんあったんですが、ロバート・エガースにはもう少し「こちら側の庭」で遊んでてほしかったですね。
「こちら側の庭」の説明は私自身にも上手にできなかったりはするんですが。