異端の鳥

チェコ/ウクライナ/スロヴァキア 2019
監督、脚本 ヴァーツラフ・マルホウル
原作 イェジー・コシンスキ

第二次世界大戦の最中、戦火を避け、一人田舎に疎開した少年の過酷な運命を描いた戦中ドラマ。

原作はポーランドで「盗作だ」「半自叙伝というのは嘘だ」と取り沙汰され、発禁になったいわくつきの一作らしいんですが、ぶっちゃけなぜこの作品が発禁?と思わなくもないです。

盗作騒ぎに関してはわかりませんが、ポーランドで非共産政権が確立されたのが1989年で、原作が1965年に発表されてるから、ひょっとしたら当局からなんらかの弾圧があったのかもしれません。

過去をほじくり返すな、的な。

そのあたりの詳しい事情は知らないんですけど、私が映画を見た限りではこれは立派な文芸だ、と感じましたね。

あまりの残酷さに途中退席も目立った映画、として評判になりましたが、私の感覚では「途中退席するほどか?」ってのが正直なところ。

なんだろ、観客は歴史や現実を学ばぬブルジョワジーばかりだったんですかね?

20歳やそこらの若い子なら仕方がないですけど、世界は陰惨で残酷で人権とかヒューマニズムとか欠片も存在しない場所が21世紀においてすらまだまだ大量に残ってる、って知らないんだろうか。

暴力と怨嗟が渦巻く村社会的な閉鎖性は、程度の差こそあれ、どの国もまるで変わってない、と私は思うんですけどね。

そもそもこの映画の描写するアンモラルな行為、排他的な凶悪さって、いかがわしさを助長するような猟奇趣味的なものではないんです。

露悪ではなく、ああ、この時代に貧しい村へ余所者がやってきたらそれぐらいはやるだろうな、こういうことも起こり得るだろうな、と納得できるもの。

置かれた環境、帰属性によって、人はいくらでも利己的な情け知らずになれるものだと思いますし。

そういう意味では、うす甘いお花畑な舌触りの良さを徹底的に排除した、至極リアリスティックな物語、と言える気がします。

ここから目を背ける、ってのは人と社会そのものを「見ようとしない」ことになるのでは、と思うんですけどね。

ま、国内においてすら100万人が引きこもってる時代ですし、それも「あり」といえば「あり」なのかもしれませんけど、あえてこの映画を見てみようと手にとった賢明な諸兄姉は、せめてこの残酷さがエンタメ(商業ホラー的な)なのか、何か伝える意図を伴うものなのか、判別する必要はあるんじゃないか?と。

そりゃね、心情的に辛いものがあることは確かです。

小学生ぐらいだろうな、と思われる少年を庇護してやろうとする存在がどこにもいないんですよ。

ろくに世間を知らぬまま、少年は流転を重ねるしかない。

でもこれこそが偽りなき戦時中の実態なんだろうな、と思う。

エンディング間近、押し殺していた少年の感情がこぼれだすように暴発するクライマックスは必見。

私は全く前情報を仕入れずに見たので、この時点でようやく背景にホロコーストがあったことを知る。

そして誰からもその名を呼んでもらえなかった少年は、最後の最後に何者になったのか?

特定の国の物語ではないと認識してもらうために、わざわざインタースラーヴィクという人工言語を役者に喋らせてまで製作に没入した、監督の強い思い入れがこれでもかと伝わってくる一作。

何よりもすごいのは、極東の島国の人間が見ても「他所の国の出来事」と思えぬ、痛哭なる普遍性があることじゃないでしょうか。

内容にそぐわぬ美しい野山のカットが印象的な大作。

見る人を選ぶかもしれませんが、外野の声に惑わされずに対峙してほしい作品ですね。

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