ウィッチ

アメリカ 2015
監督、脚本 ロバート・エガース

ウィッチ

17世紀のイギリスを舞台に、人里離れた山間部に暮らす一家の崩壊を狂気で彩ったホラー。

物語の核にあるのは敬虔なキリスト教徒である家族の盲信と混迷。

元々この一家、村に住んでたんですが、宗教観の違いから教会を離れて自給自足の生活を選んだ、という経緯がありまして。

自分の信じる道のために家族全員に田舎暮らしを強要する父親がまず居るわけです。

ところがですね、誰の協力も得られない山の中でまだ幼い子供を抱えて一家6人が暮らしていくのは想像以上に大変で。

明日の食べ物にも困り果てる始末。

神を敬い、信仰を貫く気持ちと、現実とのギャップにだんだんみんなの心が壊れていく、というのが序盤の展開。

安易な宗教批判を持ち出すまでもなく、頑迷な信仰心がさらなる窮地に家族を陥れてる、というのは見てるだけですぐわかるんですが、私が舌を巻いたのは「何が狂気を呼び覚ますのか?」その演出の見事さでしたね。

緻密なシナリオもさることながら、無知で蒙昧であることがどういう形で人を狂わせてしまうのか、ストーリーのリードの仕方が異様にうまい。

冷静に考えりゃそんなことあるわきゃないんですよ。

一日中顔を突き合わせてる家族の中に、悪魔に魂を売った魔女がいる、なんてあろうはずもない。

けれど貧しさと頻発する不可解な事件、他者との接触を絶った閉鎖的空間が、大の大人ですら疑心暗鬼に陥らせてしまう。

それを説得力たっぷりに描けている時点で9割方この作品は成功してる、と言えるように私は思います。

自然光や蝋燭の灯だけを光源とした仄暗い映像も、不穏さを駆り立てる上で効果てきめん。

また、子役が異様に演技がうまくて。

お姉さん役のケイト・ディッキーの熱演も素晴らしかったんですが、特筆すべきは弟役のハーヴィー・スクリムショウでしょうね。

もうね、あたしゃエクソシストでも見てるかのような気分になった。

怖ええのなんのって、大人顔負け。

17世紀イギリスの山間部での暮らしを忠実に再現するセット、美術の細部へのこだわりもいい。

いささか残念だったのはエンディングが幾分不可解だったことですが、ここまで忌まわしさたっぷりに「魔女を生み出す心のプロセス」を描いてくれりゃあ文句はないです。

低予算映画とは思えぬ完成度、どこかあの名作シャイニング(1980)にも通ずるものがある、というのは褒めすぎでしょうか。

この監督は将来的に凄いもの撮りそうな気がしますね。

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