I’m ナム

1987年初出 細野不二彦
小学館少年サンデーコミックス 全3巻

潰れかけた遊園地を立て直そうと奮闘する着ぐるみ少年とナイフ投げの少女のコンビを描いたファンタジックなコメディ。

ちなみに着ぐるみ少年の着ぐるみ、なぜか脱げません。

最後のオチに関係してくるんで詳しくは言及できないんですけど、チャックそのものが壊れてて着脱不能、少年はぬいぐるみを着たまま日常生活を送っている、と言う設定。

なので見た目は巨大な二足歩行の大猫と少女の物語、ってな感じです。

ま、着ぐるみ少年以外にも人間大のワニやら豚やら色々出てくるんで、往時のディズニーアニメみたいなもの、と思えばいいんじゃないか?と。

そのすべてに中の人がいるはずなんですけどね、そのあたりのデティールは描写されてません。

多分、あえて曖昧にしたんだと思うんですけどね、その理由は最後まで読めばわかる。

一応、冒頭で簡単に説明したように、ストーリーらしきものは存在してるんですけど、やってることはほとんど往年の山上たつひこです。

悪ふざけとギャグの釣瓶打ちでページを埋めていく手法。

私の知る限りでは最もギャグ漫画に傾倒した細野作品ではないか、と思いますね。

ええじゃない課(1982~)というマイナーな漫画をふと思い出したり(この作品も後半、ワニの三人組が登場してくる)。

私は初期の細野不二彦が大好きなんで、ファンタジックな味つけといい、スラップスティックな悪ノリといい、あの頃の作者が帰ってきた!とばかりに文句なしで楽しめたんですけど、どうやら雑誌掲載時の反応は違ったみたいで。

早々と打ち切り宣告されたよう。

いったいなにが少年サンデー読者のご機嫌を損ねたのか、いまだにわからなかったりします。

実に「らしい」作品だと思うんですけどねえ。

特に秀逸だったのは、ばかばかしくもモラトリアムな日常から、どんどんシリアスに怖くなっていく終盤の展開。

最後に待ち受けるどんでん返しなんて、まさに夢の国の終焉を示唆するかのような現実的帰結で、私は不意を突かれたような気分になりましたね。

たった3巻の作品ですけど、決して出来は悪くない、と思います。

というかこれで駄目ならもう少年誌で細野不二彦ができることは残ってないと思う(実際、このあと青年誌に活動の場を移しましたけど)。

隠れた秀作。

ファンなら読んで損はないと思いますね。

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