ママ

1987年初出 細野不二彦
小学館ヤングサンデーコミックス 全9巻

子持ちのバツイチな同い年に惚れてしまった主人公学生の煩悶を描いた恋愛もの。

これまでのギャグ調な作風をかなぐり捨て、ドラマ重視でシリアスな内容を志向してる作品です。

おそらく初の本格的な青年誌連載ということで、かなり肩に力が入ってたんでしょうね。

金もなけりゃ地位もない若造の目の前に横たわるシビアな現実が、これでもかとリアルに描写されてる点は評価していいように思います。

さすがの猿飛の後半ですでにその片鱗は見せつけていた作者ですが、大人の目線に耐えうる作劇はさすがという他ないです。

多くの漫画家は加齢とともに掲載誌を変遷していくものですが、なかなかこうもスムーズに青年誌へと移行できる描き手は居ないように思いますね。

圧倒的にうまいし、力量が段違いなのは間違いない。

ただね、それがエンターティメントとなりうるか?というと、こりゃまた別の話で。

お得意のコメディ風なアクセントは随所に散りばめられてて楽しいんですけど、なんだか全体的に「暗い」んですよね。

そりゃ17歳同士で、相手はバツイチ子持ちとなると、明るくなりようがないというか、これで明るかったら単なるバカの気味悪い痴話でしかないわけですが、それにしたって「こりゃ重いわ」と感じるシナリオ展開だらけでして。

それがどういう読者層にアピールするものなのか、私にはちょっと見当がつかないんですよね。

多くの場合、結婚が早い人達って、ちょっと悪かったり、イケイケだったりするものですから。

その手のタイプの人たちがヤングサンデー買って細野不二彦の漫画を心待ちにしてるとは到底思えない。

つまりは読者不在。

共感しにくいんですよね。

普通の大人なら、主人公に「やめとけ」って絶対に言う。

17歳が背負いきれるような物件じゃないし、若さだけでなんとかなるものではないことは既婚者なら全員が知ってる。

それでも突き進む主人公のどこにコンセンサスを得れば?って感じなんですよね。

純愛を描きたかったわけでもないみたいですしね。

勝手な想像ですが、おそらく作者は「めぞん一刻」の換骨奪胎がやりたかったんだろうなあ、と思うんです。

それはなんとなくわかるんですけど、やっぱり未亡人とバツイチ子持ちでは生々しさが全然違うと思うんですよ。

あまりに乗り越えなきゃいけないことが多すぎる。

とんでもなくハードル高い事案に、わざわざ作者は自分からつっこんでいってるような気がして仕方がない。

あと、恋愛における駆け引きや押し引きを描くことが細野不二彦はあんまり上手じゃない。

カップルの恋模様を描くのはあんなに上手なのに、こりゃいったいどういうことなんだ?とマジで不思議。

引きの天才、高橋留美子の半分もやきもきしないんですよね。

結果、ただただ読んでてしんどくなるだけ、という。

私がこの漫画をリアルタイムで読んでるときはちょうど学生でしたけど、それでも「ついていけない」と思ったのが正直なところ。

質は高いと思うんですが、若い人向けに描いてるはずが、そうはならなかった物語の設定なり構成が失敗かと。

むしろレディース雑誌向けの題材のような気もしますね。

その場合、主人公はママになるわけですが。

あんまり好きになれない一作ですね。

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