1981年初出 細野不二彦
小学館少年サンデーコミックス 全4巻

なんだかもう、何もかもが新しかったような記憶がありますね。
漫画界におけるニューウェーブといえば、そりゃもう影響力の大きさからして大友克洋の存在を抜きにして語ることはできないわけですが、大友の諸作(特にアキラ以前に書かれた短編等)に感銘を受けるには、私はまだあまりにも幼なすぎまして。
学生に「ショートピース」や「ハイウェイスター」の良さは、なかなか伝わってこないですよ。
そもそもが70年代を通過した大人の読者相手の漫画ですしね。
そんな私にとってのニューウェーブは、世代も影響してか、80年代の少年サンデーに他なりませんでした。
怪物漫画家高橋留美子はもとより、あだち充や六田登、上條淳士に楠桂、岡崎つぐお、安永航一郎と、誰も彼もが70年代の深刻さや、劇画の重苦しい憂悶を置いてけぼりに、ポップに垢抜けててスマートにソフィストケートしているように感じられた。
なんせ手塚治虫と少年ジャンプしか知らなかったお子様でしたから。
そりゃもう驚きですよ。
従来の漫画に比べて圧倒的に読者との距離感が近いし、親しみやすい。
洗練された作画のおしゃれ度も段違いだったように思います。
そりゃ小池一夫門下の漫画家陣や、初期のさいとうたかをはすごい絵を描きますけどね、かわいい女の子を、いかにもクラスメートにいそうな感じで描けた人は一人も居なかったように思うんですね。
ティーンが着てそうなレディースを細部にこだわって描けた漫画家自体が皆無だったわけですから。
多分トキワ荘世代は、かろうじてトップスとボトムスの区別がついている程度だったと思います。
この場合、ボトムスは100%スカートで、パンツとか、サロペットとかは存在してません。
もう記号ですから、女の子の着てるものとか。
それがあなた、ちゃんとワンピースやアウターを描きわけてるんだから、それだけで衝撃ですよ。
で、そんな私のニューウェーブ漫画家筆頭が、本作でデビューを果たした細野不二彦だったりします。
ラブコメって、こういうことか!と当時は思いましたね(実は微妙に違うけど)。
主人公である医師が、オーバーテクノロジーな発明品で周りを振り回しつつも、フィアンセである看護士女史には頭が上がらず据え膳くらいっ放し、という物語構造がなんだかもうやたら面白く感じられて。
ギャグ調にナンセンスなんですけどね、適度にドラマチックでほんのり感動的な回があったりするのがまた琴線に触れた。
顔面凶器な小太り男子が、スレンダーな美女に惚れられてる、という設定も、もてない男子の男心をくすぐりました。
なんといっても出てくる女の子が全員かわいい。
今でこそ女子を達者に作画する漫画家は履いて捨てるほどいますけど、当時はほんと細野不二彦と江口寿史ぐらいしか居なかった気がするんですよ(そこは決してあだち充ではないわけです)。
女性キャラが独立独歩し、主人公男性の添え物になってない点にも感心しました。
なんでこの人はこんなに女性心理に詳しいんだろう、とおののいたり(なんせ若かったんで)。
残念ながら4巻で終わってしまったんですけど、今でも作者の美点が全部詰まってるシリーズだ、と読み返すたびに思ったりしますね。
同時期に先行して国民的ヒット漫画、Drスランプがジャンプで連載されてたのが不幸だったか。
似たプロットの作品ですし、広い人気を獲得するには不利すぎたんでしょう。
思い入れが強すぎて正しい評価ができてないかもしれませんが、私にとっては捨てられない漫画のひとつですね。
新時代の幕開けを実感した作品。
共感してくれる人は恐ろしく少ないような気もしますが、あの頃は「天才!」と思ったなあ。