さすがの猿飛

1980年初出 細野不二彦
小学館サンデーコミックス 全7巻

どっきりドクターがデビュー作かと思ってたんですが、発表年代を調べてみるとどうやらこちらのほうが先のよう。

さすがの猿飛がデビュー作だったか。

何十年も勘違いしたままだったよ、ブログ運営も役に立つなあ。

ま、色んな意見があるかとは思うんですが、デビュー作にして最高傑作、というのが私のこの作品に対する評価。

現代における忍者を育成することを目的とする「忍ノ者高校」を舞台とした学園ものでありラブコメという、まさに少年漫画を地で行く荒唐無稽な作品なんですが、これが滅法面白い。

デブで小柄だが、恐るべき忍術の使い手である少年猿飛肉丸が主人公、というのも斬新でしたが、そんな肉丸にスレンダーな美人忍者である霧賀魔子がぞっこんで惚れてる、という設定も当時にしては目新しかったように思いますね。

やはり漫画におけるカップルというと、愛と誠じゃないけど美男美女が定番でしたから。

さすがの猿飛より先にデコボコカップルを主役に据えた漫画というと、柳沢きみおの月とスッポンぐらいしかなかったような気がしますし。

漫画創作における恋愛事情が、手の届かぬ憧れの存在のものから、身近なご近所さん的なものにまで降りてきたような感触がある。

三頭身な大食いのデブなどという使えない輩(天才忍者だけど)が、愛される対象になりうるとしたプロットは不特定多数のもてない男子に勇気を与えたような気もするんですね。

あれ?一芸に秀でてたらいけるのか?ひょっとして?みたいな。

少なくともオタクが大量発生する前夜の、大きな流れの後押しになったようには思う。

なぜ霧賀魔子は肉丸に惚れているのか?を説得力たっぷりに語るドラマ作りも良く出来てる。

タフさや強面な男臭さよりも、優しさを重要視する時代性にマッチしていたというか。

忍術を科学的に解説しようとする力技な嘘八百も往年の山田風太郎のようで笑いましたね。

シリーズの白眉は6巻、7巻あたりでしょうか。

こんなデタラメな忍者ファンタジーで、こうも細やかに揺れ動く大人の女心を鮮やかに描ききるのか、と私は舌を巻いた。

わざわざ果心居士を引っ張り出してきて、愛し合う二人のささいな行き違いを描いた最終話の出来栄えも見事。

なんで7巻で終わったのか、ホント不思議でしたね。

もう、どんどん面白くなってきてるんですよ。

この漫画はどこへ行こうとしてるんだろう、と手に汗を握っていたというのに。

少年漫画における最も良質なエッセンスを、作者のハイレベルな作劇法で染め上げた傑作だと思います。

笑って感動する、アクションコメディの金字塔。

今読んでもその面白さは色あせてないと思いますね。

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