とっととくたばれ

ロシア 2018
監督、脚本 キリル・ソコロフ

単身恋人の実家に乗り込んで、彼女の親父を亡き者にしようとする主人公青年の、思い込みのすぎる愚行を描いたバイオレンスなコメディ。

あちこちで見かけますけど、タランティーノっぽい、と言われればそうかも。

レザボア・ドッグス(1992)あたりと似てるかもしれませんね。

ただこちらは犯罪映画じゃないですし、もっとホームサイズに密室でお話が展開、さらにはシリアスさよりもブラックな笑いに注力してる印象。

ロシアにもこういう感覚があったんだなあ、というのが私の場合、驚きでしたね。

いや、あんまり「笑い」にこだわってない国なのでは・・・と思ってたものだからさ。

たいてい寒い国の人たちってそうなんですよ。

これは偏見とかじゃなくて、そういう文化が育まれてしまいがちな環境にある、というのが正しい。

日本の東北にしたって、数十年前までは劇場すらなかったわけですから。

コメディアンがドサ回りをしようにも、舞台そのものが存在しない、という。

映画と芸能ではまた話が違うんでしょうけど、地続きなのは間違いないと思うんでね、やはりチャップリンが存在しない、エノケンの存在しない国に喜劇映画は花開かんわけだ。

私が知らないだけで、ロシアでもアンダーグラウンドには存在したのかもしれませんけどね。

やっぱりこれはハリウッド映画の影響が大きい、ということなんでしょうね。

最近のロシアのSF映画なんて、そのほとんどがハリウッドの模倣だしなあ(もちろん旧ソビエト時代は全然別物ですけどね)。

ネットで何でも見られる時代になって、こういう映画も面白いと感じる視聴者が増えてきたんでしょうね。

なので強烈なオリジナリティはありません。

多分、それはこれから築き上げていくものなんでしょう。

あちこちからの借り物で演出、構成した感触は濃いですが、こりゃもう仕方がないな、と思ったりもします。

最初はみんな真似をすることから始めるものですし。

実際、模倣なりにね、そんなに悪くはないですしね。

密室劇を飽きさせないために、あれこれ工夫した形跡の見られるシナリオもそうですが、登場人物それぞれのキャラクターがちゃんと仕上がってることに私はまず感心でしたし。

彼女のオヤジのキャラなんて出色ですよ。

ひでえな、こいつ、と失笑が漏れるほど強欲で、利己的で尊大。

でも本人は自分のことを立派な父親だ、と思ってたりするんですよね。

そりゃ疑惑も晴れんわ、って。

主人公の彼氏が見かけの割には異様なタフネスぶりを見せつけるのも面白い。

全くそうは見えないギャップを、過去にまでさかのぼって説得力に変える仕事の細かさには付け焼き刃でないものを感じましたしね。

平気で殺人現場を偽装して懐を暖かくしようとするロシア警察の腐敗ぶりにも思わず笑ってしまった。

こんな風に、全体を俯瞰することで悲劇を笑いに変えるやりくちって、旧ソビエト時代にはなかったものだと思うんです。

ま、不思議惑星キン・ザ・ザ(1986)みたいな変異種はありましたけども。

ロシア映画、新時代到来か、と。

いや、決してロシアの映画文化に詳しくはないんだけれども。

勘違いや行き違いが、雪だるま式に予想外の結果を招く悪逆コメディの良作だと思いますね。

多少、血糊が多めですが、欧米のスラッシャームービーになれた人なら、毒々しいと感じるほどでもなし。

邦題も久しぶりに秀逸だと思いましたね。

偏見を捨てて見てほしい一作。

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