2021年初出 片山あやか
講談社マガジンKC 1巻(以降続刊)

食物連鎖の頂点に菌類が存在する世界で、全体主義な管理社会下に生きる主人公ダンテの「はみ出した行動」を描くディストピアSF。
作者はオーウェルの1984に強い影響を受けたみたいですけど、まあ、この手の設定の近未来SFって、映画じゃ割とありふれてるんで、格別なにか目新しさを感じるわけでもなくて。
この作品にオリジナリティがあるとすれば主人公が識字症?であることと、エリアと呼ばれる居住区の外側ではキノコが繁殖しまくってる、とした点でしょうね。
で、物語を進めていく上で「世界の謎を解き明かしていくこと」そしてそれが「主人公の識字症とどう関わっているのか?」を明らかにしていくことは必須だと思うんです。
そこにこそ、この奇妙なSFの醍醐味が隠されてるわけですから。
というか、隠されてなきゃなんない。
じゃないと、なぜこのプロットにしたのかの意味がなくなってくる。
途中までは良かった、と思うんですよ。
周りに違和感を覚えて一人だけ違う感情を持つ主人公が、レジスタンスである敵組織の女の子と出会って抱いてきた疑問を氷解させる場面とかね、先の展開を期待させるに十分なシナリオ展開だったと思うんです。
よろしくないのは脳にアミガサダケの菌床を寄生させて洗脳しよう、とするくだり。
そりゃSFなんでなんでもありと言えばなんでもありなんでしょうけど、キノコが特定の思想を植え付けるべく宿主を洗脳するとか、はっきり言って飛ばしすぎ。
多くの寄生生物が宿主をコントロールするのは、そのほとんどが子孫を残すためであって、それ以外の目的のためにたかが菌類が複雑な意思を持つのだとするならその理由、仕組みを明確にしなきゃならない。
だってもう、それ兵器ですしね。
とても自然現象とは思えないし、そんなのがうじゃうじゃ外の世界に居るのだとしたらもうとっくの昔に人類絶滅してる、って話だ。
しかも管理社会に生きる人間は全員が脳にキノコを寄生させてる、という。
もう、わけがわからない。
キノコの驚異から人類を守るためのエリアじゃなかったの?と。
なんかね、思いつきで「菌類が食物連鎖の頂点」とか言ってないか?と疑いたくなってくるんですよね。
ちゃんと理論なり、学説(疑似でもトンデモでもいいから)なり、説得力のある裏付けはあるんだろうな?と。
1巻後半のストーリー進行もあんまり褒められたものじゃない。
エリアを統括するアミガサ政府とレジスタンスの知られざる戦いがメインに描かれていくんですけど、誰がこの漫画にバトルを期待したか、と。
肉体を鉄化(日本アパッチ族か!って)して戦うとか、修行とか、そういうことがやりたかったのなら不必要な風呂敷を広げるのはやめなさい、と。
少年読者のご機嫌を伺ってるのかもしれませんが、異能力者バトルに色気みせるんだったらヒーローアカデミアとか、ジョジョとか参考にすればいいじゃねえかよ、と思うわけです。
アイディアや題材は悪くないと思ったし、期待させるものもあったんですけど、早々ととっちらかってしまった印象ですね。
作者が自分で物語をコントロールできてないようにも思える。
今の力量だとSFは難しいのでは、という気がします。
もう挽回は不可能だと思うんで、別の作品で仕切り直しを。