1984年初出 小池一夫/叶精作
スタジオシップ劇画キングシリーズ 全8巻

ベストアマの腕前を持つアマチュアゴルファー、前野金蔵がプロを目指すためにすべてを捨ててゴルフに打ち込む姿を描くスポーツ漫画。
雑な言い方をするなら「スポ根」かと思うんですが、今振り返るならこのコンビで「スポ根」描いてた、ってのもすごいなあ、と思ったり。
だって実験人形ダミー・オスカー(1977~)やオークション・ハウス(1990~)のコンビですよ?
暴力とエロスの二丁拳銃で裏社会に暗躍する超人の活躍譚、が手慣れたやり口かと思うんですが、ゴルフ漫画じゃそうはいかない。
あんまり怪しい連中を登場させすぎてしまうとプロゴルファー猿(1974~)かよ!って言われちゃいますから。
劇画の大家が二人も揃って「猿」では目も当てられんわけですから。
ま、1巻から闇の賭けゴルファーが登場してきたりと、色々怪しかったりはするんですけど、想像してた以上にケレン味なしのハッタリ少なめなのが以外といえば以外でしたね。
実に真面目にゴルフというのはどういうスポーツなのか?どうすれば技術は向上するのか?を紐解いていたりする。
多分、小池一夫本人がゴルフ好きなんでしょうね。
私は全くゴルフをやらないんで、この漫画で語られてることがはたして正しいのか、そして現在においても通用することなのかどうかすらわからんのですが、物語そっちのけで熱くゴルフ論を披瀝していることは確か。
それが従来の小池劇画ファンを遠ざけてる部分は少なからずあるかもしれない。
ストーリーそのものは主人公が様々な困難や障害にぶつかりながらも成長していく様子を描く真っ当なものなんですが、主人公の性格がひたむきで屈折していない点が幾分一本調子に感じられるかも。
前野金蔵の屈託の無さ、明るさが周りの人達の凝り固まった心を溶かしていくんですね。
いつしか敵すらも彼のことを好きになっていた、みたいな。
路線としては弐十手物語(1978~)の鶴次郎や、魔物語(1980~)の肝川のキャラと近い方向性かもしれません。
内容的に、もうちょっと続いてもおかしくはないのに・・と思わなくもないんですが、何故かシリーズは打ち切り宣告でもされたかのように慌てて8巻で終了。
その後、続編である「新上がってなンボ!!太一よ泣くな」(1987~)がゴルフ専門誌アルバトロス・ビュー誌上において、13年の長きに渡って連載されたんで、単にこの漫画を面白い!と思える層に届いてなかっただけなのかもしれませんね。
専門性が高い、と感じる部分もあるし、私はもともとスポーツ漫画があんまり好きじゃないんで、続編を読むつもりはないんですけど、むしろ従来の小池ファン以外にアピールする漫画かもな、と思ったりはします。
ゴルフマンガの金字塔(続編が)と呼ばれたりしてるみたいですし。
いや、ちょっと待て、あした天気になあれ(1981~)の立場はどうなる、と思ったりしなくはないですが。
そういえばあした天気になあれも10巻ぐらいで頓挫したな。
まあ、好みは如何ともし難い、といったところですかね。
戦いの場においては常に超人を主人公にしてきた小池一夫が、続編では非力で才能に恵まれぬ男を主人公にした点が興味深くはあるんですけどね(太一は本編においてすでに登場してます)、そのことに関しては他の識者な方々に論じていただくとして。
興味を持てないのに続編36巻は読めないですよ、いやマジで。