2003年初出 岩明均
講談社アフタヌーンKC 1~5巻(以降続刊)

紀元前4世紀の古代ギリシャ、マケドニア王国のアレキサンダー大王に仕えた秘書官エウメネスの波乱の生涯を描いた歴史大作。
普通に驚いた、というのはありますね。
まさか寄生獣(1990~)から古代ギリシャへと作品の題材が変遷するとは思ってなかったものだから。
失敗作とまでは言いませんが、私は七夕の国(1996~)で明らかにトーンダウンした、と思ってるので、次作は多分、風子のいる店(1988~)みたいな路線に戻るんだろうなあ、と勝手に思ってた。
それがあなた、新作はアレキサンダー大王って、なんとまあ挑戦的な・・・と思ったんですけど、これが意外や意外、予想外に面白い。
私は古代ギリシャとかまるで興味の持てぬ野暮天ですが、そんな不勉強極まる門外漢が読んですら楽しめるんだからこりゃ相当だな、と素直に脱帽。
だいたい海外を舞台にした歴史ものって、多くは説明に走りがちで読んでて面倒くさくなるケースが大半だったりしますが、作者は舞台背景をおろそかにすることなく、ドラマで読者を引きつけることに成功してる、と思いますね。
私が恐ろしく磨きがかかってきたな、と思ったのは「間」。
キャラクターがセリフを吐いてないのにも関わらず、行間(コマ間)から登場人物の感情の機微、場の空気が読み取れるんですよね。
これは作者ならではの「無言のリズム」と言ってもいいかもしれない。
寄生獣を超えようとするのではなく、自らのドラマツルギーそのものを見つめ直し、深化させてきたというのは創作者としての作品に対する取り組みが生半可ではない証左ではなかろうか、と思うわけです。
日本においては、どちらかというとマイナーな素材をどうすれば読者に興味もってもらえるか、岩明均はちゃんと考えてる。
台詞回しにさらに磨きがかかってきてるのにも感心。
断言しますけど、この作品は間違いなく寄生獣以上の傑作になると思います。
別人クラスで基礎体力が違うし、技術が違う。
早い話が化けた。
残念なのは休載がやたら多いことですが、これだけの濃さならまあ、仕方ないかと。
私はまだ5巻までしか読んでないんですけど、今現在、続きの気になる漫画のベスト5にはランクインする出来だと思いますね。