1993~96年初出 伊藤潤二
朝日ソノラマ眠れぬ夜の奇妙な話コミックス

<収録短編>
仲間の家
なめくじ少女
隣の窓
漂着物
ご先祖様
異常接近
怪奇ひきずり兄弟◎次女の恋人
怪奇ひきずり兄弟◎降霊会
これまた名作目白押しの短編集。
どれも甲乙つけがたい感じですが、傑出してるのはやはり「なめくじ少女」でしょうね。
舌がなめくじになってしまう、などというアイディアがいったいどうすれば湧いてくるのか、ほんと作者の頭の中を覗いてみたいです、私は。
しかもこの短編、怪奇と不条理の双方を抱え込みながら、ラストシーンでそれが美に昇華してたりするんです。
いや、これを美だなんて言ってしまうと、お前は頭がおかしい!と叩かれそうではありますが、私の感覚ではこれはホラーの向こう側にしか存在しない美ですね。
1枚の絵画のようにも思えました。
「仲間の家」はわかりやすい幽霊譚ですが、これもラストが秀逸。
もうほんとにね、いったい誰がこんな場面をオチにしようだなんて考えるというんだ!と笑いの感情すら湧いてきましたね。
同じく「隣の家」もオチが見事。
まさかこう来るとは、とあっけにとられましたね。
つくづく発想が普通じゃない。
「ご先祖様」も奇想が光ります。
で、その奇想がちゃんと絵として不気味極まりないシーンを産み出してるのが素晴らしい。
こんなものに追いかけられた日には私だって卒倒する、と真剣に思った。
「怪奇ひきずり兄弟」は双一シリーズ路線のホラーギャグ。
ま、お好きなんでしょうね、この手のブラックなコメディが。
和製アダムスファミリーみたいな質感もあって、悪くはないです。
2話で終わってますが、続ければ黒い「てんとう虫の歌」になったかも。
「異常接近」のみがありがちな怪談風で低調ですが、とりあえず前半の5編を読むためだけでも購入の価値ありですね。
ファン必携の1冊でしょう。