七夕の国

1996年初出 岩明均
小学館ビッグコミックスピリッツ 全4巻

物質を穿つ(空間ごと削り取る)能力を持つ大学生が巻き込まれる、奇妙な出来事を描いた伝奇?SF。

はっきり言って、90年代においてさえ決して目新しいとは言えない題材だ、と思うんです。

最後まで読まないとそうは思えないかもしれませんが、身体的超常性を取っ掛かりとして物語を広げていくシナリオの道筋がね、なんだか既視感強いというか、どこかで読んだ(見た)ような感じ、というか。

ミステリ風の体裁とディメンションボールというギミックが先の展開を大きく期待させはするんですけど、終わってみればほとんどX-FIILE(1993~)の世界じゃないか、と。

つまりは1時間でまとまってしまうような内容ということ。

SF好きな人だったらわかってもらえると思うんですけど、70年代~80年代にかけて(もっと古くからあるかも)この手のオチに誘導する物語って、小説、漫画を問わずいっぱいあった、と思うんですよ。

あえてそれを90年代に焼き直す理由がこの作品からは見えてこない。

主人公南丸洋二のキャラクター設定も、どちらかと言えば失敗してる気がしますね。

寄生獣の主人公、新一とは真逆のキャラでSFに挑んでみたかったのかもしれませんが、幼児性の残るとぼけた天然キャラでこのシリアスさに対峙するのはあまりに厳しすぎる。

せっかくのスケールが無思慮で直情的な正義感?みたいなものでホームドラマサイズに切り揃えられちゃうんですよね。

実際、作者自身が南丸をコントロールできてない印象も受けましたし。

せめてもう一歩踏み込んで「窓の外」の存在を考察してみせて欲しかった、と思います。

「手の届くもの」「窓を開くもの」といったキーワードや、カササギをモチーフとした謎かけは面白かったんですが、石ノ森章太郎が大好きそうな着地点がなんだかよくある都市伝説のようだ、と私は思いました。

寄生獣を読んだときも思ったんですけど、岩明均はあんまりSFに適性を発揮しない漫画家だと思うんです。

前作の予想外の大ヒットが彼にSFを強いたんでしょうけど、本来はもっと別の方向性に強みを見せつける人なんじゃないか?と。

それを証明してみせたのがヒストリエ(2003~)だと思うんですが、そのことについてはまた別ページで。

佳作。

あまり期待しすぎずに読む分にはいいんじゃないでしょうか。

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