THAT’Sイズミコ

1983年初出 大野安之
スタジオシップ 全6巻

一体このマンガを文章でどう表現したらいいのか、本当に悩みます。

初期はモラトリアムな女子大生二人組のナンセンスなSFコメディだったんですね。

語弊があるかもしれませんが、対象の年齢層をもう少し上に設定したDrスランプといった趣。

もちろん則巻博士は女性で=イズミコであり、アラレちゃんは不在でツッコミとして=ゆーこ、と言う構図ではあるんですが。

いかにも80年代な軽いノリとなんでもありな荒唐無稽さが時代を感じさせます。

ところが本作、中盤辺りから徐々にその作風を変えてきます。

イズミコが実は世界規模の財閥の娘であることが判明したあたりから、彼女の各種の発明は時空を超えて未来から持ってきた物である、なんて種明かしもされ、ストーリーは得体の知れない奇妙なシリアスさを帯びてくるんです。

そもそもイズミコとは何者なのか。

極楽院家とはどういう存在なのか。

決定的だったのは第3巻に収録されている中編「バイポーラー」で、クローンでも双子でもないもう1人のイズミコ、カガミコが登場し、別の時空域にまでスリップして意味なく殺しあいを始める、という展開。

コメディどころか、ガチでSF、異世界ダークファンタジー。

こりゃいったい何なんだ、と手に汗握る。

その後も突然絵物語をやりだしたりとか、コラージュだけで短編を制作してみたりとか、実験的な試行錯誤(手抜き?)を繰り返し、従来のコメディ的要素もちょくちょく交えながら、SFマインド濃厚な短編をいくつか披露した後、エンディングで再び「バイポーラー」。

最終話ではたった1人の異能な財閥の娘の身内の喧嘩に東京は焼け野原にされ、ICBM弾が飛び交う有様。

一切の大義名分なし、正義も悪も不在でハルマゲドンをやらかしたのは、この漫画だけではなかろうか、と思います。

そこには何のドラマもない。

ひょっとすると自己同一性の揺らぎが全てを巻き添えにしたって事?なんて邪推をしたりもしたんですが、多分一切合切が、因果の因不在、理不在で、こういう絵を成り立たせることもできる、という証明だったのでは、と思ったりもします。

深読みしすぎかもしれませんが。

異色の全6巻。

詰めの甘い部分もあるし、すっきりしない部分も残されてますが、モラルも常識も越えてこうもSFであることの自由さを膨らませ続けたマンガを私は他に思い出せません。

現在(15年)非常に入手困難だと思われますが、一読の価値有り。

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