サラカエル

2009年初出 六道神士
アスキー・メディアワークスDCコミック 全3巻

科学技術の代わりに魔法が人々の生活を支える世界を舞台に、話す言葉がすべて現実化する「無言の園」の民、リーバの「力を封印するための旅」を描いたSFバトルファンタジー。

なんだかもうRPG世代直撃な設定、って感じですが、おそらくこれは掲載誌の性格に合わせた、ということなんでしょう。

電撃黒魔王という雑誌にどういう漫画が載ってるのかまるで知らないんですけど、若年層ターゲットなのは間違いない、と思いますし。

なんせアスキー/メディアワークスだしなあ。

それなりに制約はあったんだろうな、と想像するんですが、とりあえず作者は自分らしさを損なわず、プロの仕事をしてるな、と思いますね。

巧みだったのは、じつはこれ「西遊記」の異世界ファンタジー版であるということ。

従者は二人しか居ないんですけどね、リーバの唱える言葉が三蔵法師のお経、力を返す旅が「衆生を救うため」のありがたい経典を受け賜るための旅、と解釈すると合点がいく人も多いはず。

そうとは気づかせずにロールプレイ風なのがなんとも巧妙だ。

いやいや、こういう形で換骨奪胎するのか、と。

まんま西遊記を拝借してる大勢の漫画家は、ちったあこれ読んで学べ、と思いますね。

主人公の旅自体が、万能であることを捨て去ることを目的とするものであることも、我が身を投げ出す悲しみに満ちていてなにやら深い。

どこか殉教者的なんですね。

また、そんな主人公の本質が、敵である教団の振る舞いと対比して描かれてるのも皮肉たっぷりでいい。

本当の救いは何によってもたらされるのか?とふと考えたりもする。

しかし、これが人気でないのか・・・と思いますね。

口枷の少女という絵面(鬼滅の刃より7年も早いぞ)といい、物語の構造といい、ともすればSFとして成立してしまいそうな現実味の匂わせ方といい、コメディ調の演出、キャラ立てといい、非常によく出来てると思うんですけどね、若い読者には伝わらなかったか。

3巻で終われるような内容じゃないですよ。

それでもラストシーン数ページが、良質な映画作品のように感動的なんだから、あたしゃほんと恐れ入った。

神に迫るエンディングの展開の後にこれを持ってくるんだから、その落差たるや見事と言う他ないですね。

きっと慌てて物語をたたまなきゃならなかったはずなのに、これだけのものを見せつけてくるのか、と。

なんとなく忘れ去られてしまうには惜しい一作。

のちに発表されたデスレス(2010~)に引き継がれた、と思われるアイディアもいくつかあるんで、ファンは読んで損なしだと思います。

私は結構好きですね。

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