2004年初出 伊藤潤二
小学館ビッグコミックス

天才伊藤潤二がものの見事に足を滑らせて派手にすっ転んだ一作、と私は認識。
巨大な遊星が地球に接近衝突する恐怖を描いた作品なんですが、何が失敗してるって、題材は間違いなくSFなのに、それを徹頭徹尾ホラーの文脈で語ってしまったことでしょうね。
これね、ホラーが包括するSF風味だったらまだ良かったんですよ。
そのあたり、作者の最も得意とするところですし、きっと独壇場となったことでしょう。
でも双方が完全に逆転しちゃうのはさすがにいただけない。
浮き彫りになるのは荒唐無稽。
怖いとか楽しいとか以前にね、まず湧いてくる感情は「ありえねえ」。
自由奔放にやってくださるのはいいんです。
発想の飛躍、とらわれなさこそが伊藤潤二の持ち味でしょうし。
けれどハナから物理学、天文学を完全に無視されちゃうとですね、これはいったいどこの世界の物語なんだ?って、どうしてもなっちゃう。
特に後半の展開なんてデタラメもいいとこです。
「ロシュの限界」はいったいどうなってるんだ、と。
やっぱり最低限の科学常識ぐらいは抑えておいてもらわないと、これはひょっとしてギャグなのか?といらぬ疑心暗鬼にかられてしまうわけです。
奇想の均衡が崩れた作品、ですね。
今にして思えば、作者にとって、ここがメジャー誌で連載を持つことの臨界点だったのかもしれません。
トンデモの部類でしょうね。
さすがに長年のファンでもこりゃついていけん。
ちなみに併録されてる「億万ぼっち」のほうがよっぽどシュールで狂気漂う傑作短編です。