報いは報い、罰は罰

2016年初出 森泉岳土
エンターブレインビームコミックス 上、下

陸の孤島と呼ばれる、巨大な洋館の主に嫁いだ女の失踪に端を発する、一連の事件を描いたホラー/ミステリ。

独特の作画技法は相変わらず冴え渡ってますが、結論から先に言っちゃうなら失敗作でしょうね。

おそらく、あまり心霊とか怪奇に寄りかかりすぎないホーンテッドハウスものをやりたかったんでしょうけど、いわゆる前フリというか、謎かけがもう本当に下手で。

これはいったいどういうことなんだ?と、読者が前のめりになる仕掛けが皆無なんですよね。

謎めいた行動をする登場人物たちや、屋敷の忌まわしい雰囲気作り等、お膳立ては完璧なんですけど、主人公である『屋敷に嫁いだ女の姉』がほんとなんの役割も果たしてなくて。

もし事件が起こるのだとすれば、女の姉がきっかけにならなきゃいけないはずなんですよ。

いちいち首を突っ込んでくるとか、見ちゃいけないものを見ちゃったとか。

ただ居るだけなんです、この女。

んで、なんとなく流されて屋敷に連泊して、真冬に遭難しかけたりしてる。

そうなったのもすべては失踪した『嫁いだ女』のせい、という解釈ももちろん成り立つんでしょうけど、それ以前の問題として、姉の立ち居振る舞いが単なる馬鹿な闖入者にしか見えなくてですね。

これ、雑魚キャラというか、最初に死ぬやつだな、としか私には思えなくて。

どこまでも傍観者的なんですよね。

いやお前、本当に何しにきたんだ?と部外者ですら問いかけたくなるような感じなんです。

結果、事件は主人公とは関係なしに、勝手に回ってる印象を受ける。

それぞれがそれぞれの都合で恨みつらみを独白して自滅していってる、みたいな。

主人公の手元に事件そのものが絡んできてないから、どこか「伝聞の惨殺劇」みたいな様相になっちゃってるんです。

それを「罰」とか言われてもですね、知らんがな、という話なわけですよ。

作者はヘンリー・ジェイムズのねじの回転の一節を冒頭で書き出したりと、かなり力のはいってる様子ですが、私の感覚だと祈りと署名(2011~)の方がよほど肉薄してた気がしますね。

というか、やはりねじの回転、好きだったか、森泉岳土。

長編ミステリの難しさ、に直面した一作かもしれません。

短編集で見せた、作者ならではの冴えはここにはないですね。

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