監督、脚本 パスカル・ロジェ
田舎の叔母の家を相続した親子三人を襲う理不尽な出来事を描いたホラー。
パスカル・ロジェ監督、6年ぶりの新作です。
いやもう本当にね、待ってましたよ私は、首を長~くして。
まさかこのまま引退しちゃうんじゃないだろうな?!と恐れおののきながら。
若い頃からホラー映画見すぎてすっかり「怖さ」に不感症気味な私を、近年唯一震え上がらせたのが同監督作品のマーターズ(2007)でしたんでね、新作を待つな、という方が無理な話でして。
そりゃ期待値はうなぎのぼり。
なんせ6年もスパンが空いたんだから、こりゃもうさぞかし練りに練られてることだろうと。
1秒たりとも見逃すまい、と画面の前で正座ですよ。
・・・すまん、ちょっと今話を盛った。
まあ、それぐらいテンション上がってた、ってことです、要は。
こういう思い込みがあんまりよくない、ってのはわかってるんですけどね、なんせ音沙汰がなかったし、ロジェならきっと裏切りはしないだろうと。
で、結局どうだったんだ、って話なんですが、端的にいうならマーターズと比肩する、ないしは超える出来ではありませんでした。
ただ、過去作すべてと比べてみても、段違いにシナリオの精度、構成力、安定感は向上してましたね。
これを円熟と呼ぶのならきっとそうでしょう。
結局、完成度の高さに重きをおくか、創造性の高さ、独自性に比重をかけるかだと思うんです。
今回、監督はホラー映画としての質にこだわってきたように私は感じてます。
少なくとも「らしさ」は損なわれていない。
序盤の30分ぐらいで、いきなり物語が激しく動き出すのも、1時間を待たずしてどんでん返しが待ち受けてるのも、そうそう、これこれ!って感じでしたしね。
なんと言っても遠慮呵責なし、容赦なしなのが相変わらずで、ほんとキツイ。
主演女優が二人そろってお岩さんのようなご面相になってる映画って、そうそうないと思うんですよ。
直接的な描写は少ないんですけどね、画を見てるだけで、いったいどれだけ理不尽な暴力にさらされてきたんだ、と肌が泡立ってくる。
そういうところでリアリズムにこだわらなくてもいいから、みたいな。
観客に嫌な想像をさせるのがうまいんですよね。
現実と非現実を描き分けるギャップの演出もお見事。
半端ないです、奈落の底へ突き落とされた感覚。
もう許してあげて、助けてあげて、と見てて懇願したくなってくる。
ま、物語そのものを解体するなら、それほど独特なストーリーってわけでもないんです。
むしろ70~80年代のアメリカン・スラッシャームービーに直結してる、と言っていいかも知れない。
やっぱり「どう見せるか」なんでしょうね。
ロジェの手にかかるとここまで違って見える、というのが彼の才覚を知らしめてる気がしました。
これで最後の最後に全部ひっくりかえしてくれてたら・・・と思わずにはいられませんが、6年ぶりですし、今回は整合性を優先した、ということで納得することとしましょう。
オーソドックスな仕上がりではありますが、それでも凡百のホラーを軽くひとまたぎしてることは保証します。
ここを足がかりにぜひ次はせめて2、3年ぐらいのスパンで新作を。
この調子ならきっとやれるはず。