ホテル・ムンバイ

オーストラリア/アメリカ/インド 2018
監督 アンソニー・マラス
脚本 アンソニー・マラス、ジョン・コリー

ホテル・ムンバイ

2008年、インドの五つ星ホテルであるタージマハル・ホテルで起きた、無差別テロ襲撃事件を映画化した実話もの。

突如、降って湧いた災難に動転する宿泊客及びホテル従業員の、緊迫感あふるる描写はなかなかのものだったと思います。

なんせ暴力沙汰とは無縁そうな富裕層ばかりが泊まってるホテルですから。

武力に対して拮抗するすべがない。

もうただひたすら見つからないように隠れてるしかないわけですよ。

しかも最悪なことにテロ組織を鎮圧できそうな治安部隊は1300キロ離れたニューデリーにしか居ない、ときた。

もちろん地元警察は駆けつけてます。

けれどインド警察程度の武装ではテロリストどもに対抗するすべがないんですよね。

四面楚歌とはまさにこのこと。

この何ら打つ手のない危機的展開に、手に汗握らないはずもなく。

また、縁もゆかりもない赤の他人にすぎない宿泊客に対する、ホテル従業員の献身がなんとも胸アツで。

5つ星ホテルの従業員ともなると、ここまでプロフェッショナリズムが浸透しているものなのか、と。

こんなのマニュアルには絶対ないはずなのに、それぞれが素早く命を守るための行動に徹するんですよね。

これが国民性なのか教育の成果なのかはわからないですけど、すげえなインド人、と。

私の勝手な想像なんですけど、北米のホテルとか絶対こうはならない気がするんですよね。

偏見かもしれませんけどね。

パニックに陥る婆さんに対して、主人公が自分の信仰を曲げてまでなだめようとするシーン等、見せ場も盛りだくさん。

こいつは死なないだろうな、と思われる人物があっさり死んだりとか、ストーリー進行は予断を許しません。

テロリスト共を単なる悪として描かなかった演出も秀逸。

実話の映画化作品としては脚色込みでかなり良く出来てる部類でしょうね。

123分、あっという間。

ただ、少し残念だったのは、クライマックスにもう一山くるかな、と思わせておいて、なんとなく「よかったね」で終わってしまったこと。

宿泊客の中に、自分の子供と離ればなれになってしまった若いお母さんがいるんですけどね、その親子のドラマがフィナーレを飾る、みたいな構成になってて。

個人的には、主人公であるホテル従業員アルジュンの内面をもう少し掘り下げてほしかった、と思いました。

何故彼は、役職につく責任ある立場でもないのに、命を賭して客のために尽くすことができたのか?

幼い子供を抱えて貧しい生活を送っているというのに、大金持ち共の「盾」になれたのは何故なのか?

これを彼の信仰のおかげ、で片付けてほしくはないんですけど、あえてなにも言及されることがない、ということは「そういうこと」なのかなあ?

だとするとドラマの色合いもまた変わってくる、と思うんですよね。

ちょっと判別つかないですね。

無茶な侵入を試みた刑事とか、使える駒がいくつかあったんだから、アルジュンとの「危機的状況だからこそ成立する会話劇」とかね、盛り込んでくれてたら色々想像することもできたかと思うんですけど、監督、おいしいところを割とあっさり流しちゃうんですよね。

そのあたりは今後の課題かもしれません。

ま、商業デビュー作でこれだけやれたら上等でしょうかね。

見応えある一作だと思います。

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