韓国 2018
監督、脚本 パク・フンジョン
記憶喪失の少女を巡る非合法機関の暗躍を描いたSFアクション。
いや、SFってのは少しおおげさか。
それほど現実から飛躍してるわけでもないですし。
ま、早い話がやってることは、70年代半ばぐらいから80年代に少女漫画の世界で大流行したサイキックなヒロインものと似たような感じです。
超少女明日香とかブルーソネット紅い牙とか、あのあたり。
遺伝子工学で脳をいじくられた名もなき少女が、非合法組織から脱走する際に追った傷が原因で記憶喪失、親切な夫婦に拾われて新しい名をもらい、その後10年以上に渡って平穏に暮らす日々だったが、テレビに出演したのをきっかけに面が割れ、再び組織が少女に魔の手を伸ばす・・・って、もうね、何十年前のプロットなんだよ・・・・・話でして。
遺伝子工学ネタをなんのひねりもなく堂々と使い回す感覚にも恐れ入りますが、記憶喪失で、しかも偶然テレビって、もし新進気鋭のシナリオライターが「新しい映画の企画なんですけど、こんなお話でどうでしょうか?」って原稿用紙の束持って来たら、一読して「才能ないから今すぐ荷物まとめて田舎に帰れ」と、私なら言うレベル。
焼き直しというのもおこがましい陳腐さが腐臭を放ってますよね、いやマジで。
草葉の陰で石ノ森章太郎先生が「また再び俺の時代がきたか!」と勘違いするじゃねえかよ!って話なわけだ。
ぶっちゃけアホくさくて中盤ぐらいまで正視できませんでした。
本気でやってるのか?これ?ってな感じで。
またヒロインの女優さんが華のないのっぺりとした顔のお嬢さんで。
酪農家のもとで育ってる設定なんですけどね、いいからもうお前はおとなしく乳搾りでもしてろ、といいたくなる相貌。
途中で寝落ちしかけること数度。
もう、見なかったことにしようかな、と思うこと数回。
そんな溶けかけの私を一気に叩き起こし、なんじゃこりゃ!と仰天させたのが、よりにもよって1時間40分が経過し、残り約30分となった時点での展開でして。
これは正直びっくりした。
そうきたか、と舌を巻いた。
数奇な運命に翻弄される少女を悲劇的に描くことそのものをひっくり返してくるとは、流石に予想がつかなかった。
ラスト30分、怒涛です。
主演のお嬢さん、キム・ダミも取り憑かれたような演技を見せる。
なるほど、だからTHE WITCH/魔女なのか、とひどく納得。
この映画を韓国版「カメラを止めるな!」だ、という人が居るのもわからなくはないですね。
ま、カメラを止めるな!とは湧いてくる感情が真反対だったりもするんですが。
しかしオープニングから約1時間40分が壮大な前フリだったとは・・・。
途中で嫌になる人がいるとは考えなかったのか!と、その大胆極まる手口に呆れますね、ほんと。
傑作だとはいいません。
けれど、溜めて溜めて溜めまくって、最後の最後で爆発させる構成に、強烈なカタルシスを感じたことは確か。
どうやら続編ありきで作られてるようなんですが、これは見てしまうな。
更にすごくなりそうな予感は微塵もないですが、陳腐さの果てに何を成そうとしてるのか、妙に気になります。
韓国ならでは、と言える1本かもしれませんね。
完全に負け試合だったのに、最終ラウンドで最初から狙ってたパンチがようやく相手にあたって、たった一発でKO勝利したかのような作品。
韓国バイオレンスがお好きな方ははまるかも。