マーターズ

フランス/カナダ 2007
監督、脚本 パスカル・ロジェ
マーターズ
2015年、アメリカでリメイクされましたがこちらがオリジナル。

ただゴアなだけ、ただただスプラッターなだけのホラー映画は私の場合、一周まわって逆に退屈なんで、実は長い間この作品、敬遠しておりました。

なんだかね、ひたすら残虐描写に執心しまくってそうな気がしたんですよ。

もちろん一方的な先入観なわけですが。

しかしまあ、リメイクされるぐらいだからそれだけじゃないのかな、と今回、思い切って手にとってみたわけですが、 いやこれ、久しぶりにホラーで驚かされましたね。

怖いとか、忌まわしいとかその手の感情以前に、先の展開が全く想像できないことに私は舌を巻いた。

普通はオープニングを見て、SAWシリーズみたいな感じなのかな、と誰もがぼんやり考えると思うんです。

ところが監督はそんな観客の思い込みを次から次へと裏切って、予想外の場面をこれでもかと矢継ぎ早に用意してくる。

特に序盤、被害者リュシーが15年後にある家庭を訪れたシーンなんて、いったいこれは何が起こってるんだ、とあたしゃあたふたした。

なんだこれ、最初から飛ばしすぎだろうと。

あんまりセオリーを無視しすぎると後々苦しくなるぞ、なんていらぬ心配をしたりもしたんですが、そんな半可通の懸念を軽々と置いてけぼりにしてストーリーはひたすら加速。

興ざめを招く危険を冒しつつもダブルヒロインを効果的に使い、超常へ逃げずに終盤へと物語を橋渡しした手際は見事の一言。

そしてなんといってもあっ、と言わされるのはエンディングでしょうね。

まさかこんなオチが待ってるとは、と誰も予測できなかったのではないでしょうか。

私はこれ、ある意味ホラーの枠組みを飛び出してるな、と思ったりもした。

いったい彼女は最後に何を見たのか、それをつまびらかにせず、想像にゆだねたまま幕引きへと至っているのもいい。

目を覆いたくなるような流血シーンがないわけではないんですが、そこをじっくり露悪的に見せつけるのではなく、あくまでホラーファンへの撒き餌として効果的に利用し、思いもよらぬ場所に物語を着地させた豪腕ぶりはこの手のジャンルが苦手な人にもオススメ、といえるのではないでしょうか。

傑作だと思います。

できうることならなるべく前情報を仕入れずに見てほしい、と強く願う次第。

忌まわしさの向こう側に存在する狂気がどくどくと脈打ってます。

コメント

  1. […] マーターズ […]

  2. […] 非常に難しいことに挑戦してる作品だと思います。その心意気は買いたい、と思う。見ていて、ありきたりのものは作らない、という志はしっかり伝わってきましたし。ただ、意気込みとは裏腹に、それがすべてうまくいってるとはいい難い、というのが正直なところでしょうか。いわゆる、どんでん返し系、と言っていい作品だと思うのですが、やっぱり丸ごと全部ひっくり返すなら終盤に一気にやるべきだった、と私は思うんですね。驚きの余韻が醒めやらぬうちにエンドロールを迎えてこそ、観客は我に返る時間を取り戻せぬまま茫然自失と相成るわけで。一応、構造的には二重オチに近い、と言っていいと思うんですが、中盤における最初のひっくり返しからラストシーンに至るまでがやっぱり長すぎた。間延びしてしまうんですよね。そこはもう一度体勢を整える隙を見る側に与えるべきじゃなかった、と私は思う。一息ついてしまうと、ついつい余計なところに目がいってしまったりするわけで。前半と後半では物語の視点が変わってなきゃいけないはずなのに、その切り替えが上手にできてないとか。主演のジェシカ・ビールの演技に影や狂信が見当たらなくて真実味がない、とか。それも終盤、一気呵成に片付けてたらきっとアラも目立たなかったはずなのに、とどうしても思ってしまう。「引き」が上手じゃなかった、ってことなのかもしれません。さして必要のないカットが多い割には、肝心な炭鉱町の貧困の現状がきちんと描写されてないのもいささか疑問でしたし。とはいえ、都市伝説か、それともスティーブン・キングか、ってな滑り出しから、ミステリをなぞらえるように驚きの着地点へと物語を誘導したシナリオはロジェならではのものだった、とは思います。意表を突きすぎてて逆に呆れてしまう人も中にはいるかもしれませんが、ホラーの体裁を隠れ蓑にある種の社会派ドラマとでもいいたくなるようなエンディングへと急降下する映画なんて、そうそう他にはないことだけは間違いないでしょうね。まず、どんでん返しありき、に囚われてしまったような気がしなくもありませんが、問題提起を孕みつつもどこか人間の善性を信じようとするラストシーンが私にとっては印象的でした。前作マーターズを暗とするなら、実はこの作品は対となる明なのかも、と思ったり。総合的に高く評価は出来ないまでも、やっぱりこの監督の作品は見逃せない、と思った1作ではありましたね。 […]

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