ブルガリア/ギリシャ 2014
監督、脚本 クリスティナ・グロゼヴァ、ペダル・ヴァルチャノフ

ブルガリアの新鋭女流監督、クリスティナ・グロゼヴァの長編デビュー作。
クレジットに名を連ねているペダル・ヴァルチャノフって人は旦那らしいです。
二人三脚で映画を共同制作しているとか。
さて、私は過去にブルガリアで製作された映画なんて見た記憶はないし、ブルガリアの映画シーンがどうなっているのか、全くわからないんですが、この作品に限って言うなら、異様にレベルが高くてかなり驚かされた、というのはありましたね。
ダメな夫のせいで家を競売にかけられそうになる女教師が借金返済のために右往左往する様子を描いた作品なんですが、まず感心したのは、セリフに頼ることなく、主人公ナデがどういう環境に身を置いていて、誰に対してどんな感情を抱いているのか、ストーリーを追うだけで自然と全部わかってしまうこと。
つまりこれ、一見無駄に思えるシーンですらすべて登場人物の背景を支える役目を果たしている、という事だと思うんです。
例えばナデの夫に対する感情。
これ、欧米社会なら即離婚ものだと思うんですよ。
でもナデは夫をあしざまに責めることなく、全てを一人でなんとかしようとする。
普通なら「ダメなあなたでも私は嫌いになれない、二人でもう一度がんばりましょう」なんて、セリフが入ると思うんです。
でも監督はそんなわかりやすいセリフは一切吐かせない。
その代わりに挿入された場面が、父親宅で罵倒された夫を擁護するシーンであり、車はいつ修理できるのか、夫に聞くシーンだと思うんですね。
ああ、彼女はここまで追い詰められても夫と娘を一番大事に思ってるんだなあ、と諭されなくとも伝わってくる。
・・・・・それが是か否かはこの際別として、うん。
これってやはり、物語の構成力の高さであり、演出のうまさだと思うんですね。
結果それが、良質のサスペンス並の臨場感、緊迫感を作品にもたらしている、と言えると思います。
だらだらひっぱらず、テンポがいいのも好感触。
教室でおきた小さな窃盗事件と、ナデのかかえる問題を対比させたのもうまかった、と思う。
ただ、惜しむらくはエンディングで、その後の顛末を描ききらずに終わってしまったことに若干の煮え切らなさを私は感じたりもしました。
いや、あそこで終わるからこそしゃれてるし、テーマが輪郭を帯びてくるんだよ、という方もおられるかもしれませんが。
そこは意見が分かれそう。
強烈なリアリズムを貫きながらも、これはひょっとしてコメディだったのか?と感じさせる部分もあったりして、思わぬ収穫であったことは間違いありません。
要注目の監督だと思います。