スペイン 1973
監督 ヴィクトル・エリセ
脚本 ヴィクトル・エリセ、アンヘル・フェルナンデス=サントス
恐ろしく寡作ながら多くの映画人やファンから圧倒的支持を集めるヴィクトル・エリセの本邦デビュー作。
なんとも不思議な作品です。
まず、セリフがほとんどない。
説明的になることを嫌っているのかもしれませんが、ともすればなんのホームビデオなんだこれは、と思えてくるほど淡々と日常を描写。
主役はスペインの小さな村に住むアナという1人の少女なんですが、アナがちょこまかと動き回るのを簡単な会話を交えてただひたすら追って行くんですね。
基本、ストーリーらしきストーリーはありません。
他愛のない出来事の積み重ねでシナリオは進行して行きます。
はっきりいって見始めて30分ぐらいで私は、こりゃ芸術系のやばい作品に手を出しちゃったのでは、と不安がむくむくと頭をもたげてきたんですが、それにしちゃあ何故か退屈しない。
アナのしぐさや動きがやたらかわいい、と言うのもあるんですが、妙に惹きつけられる画を撮るんですね、この監督。
荒涼たる収穫後の畑にぽつんと点在するあばら家と井戸、それを遠くから1人眺めるアナの構図なんて、絵画の題材か、と見紛えるほどの寂寞たる美しさがある。
終盤、逃走兵が登場するにいたって、やっと物語は少し動き出すんですが、それでもその顛末が劇的ななにかをもたらすわけでもない。
いうなれば最後までアナの1人芝居。
これを幼年期からの脱皮を描いた作品、と評する人も居るようですが、そこに断片的に暗示するもの、隠喩と思われるものを感じとることはできるにせよ、私には童心という得体の知れない心のメカニズムを、解き明かそうとするでなく、ただ詩情豊かに書き連ねた散文であるかのように映りましたね。
独りよがり、と呼ぶ人も中にはいるかもしれませんが、映像表現に衝立を設けない人にとってはひどく印象に残る一本かもしれません。
野心満々に実験してるわけでもないのに結果こうなった、というのはひとつの才能では、と思います。
私は映画というジャンルの持つ裾野の広さ、自在な可変性を見せつけられた気がしましたね。
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