1978年初出 倉多江美
白泉社花とゆめコミックス

これは一体何なんだ?と初読時、唸らされたのがこの一冊。
まあ少なくとも少女マンガではないですね。
遠くへ行っちゃってるというかサイケというか、私はなんとなくつげ義春の「ねじ式」を思いだしたりもした。
しかしこういうマンガが花とゆめ掲載って・・・
何でもありなのか、花とゆめ。
今だったらメジャー誌でこんなのはおそらく連載不可だと思う。
大きく分類するならサイコホラーで心理サスペンスだと思うんですが、そう断じてしまっていいのか?と不安になるのがこの作品の特徴で。
主人公樫山の心象風景をつづったようなシーンがセリフ無しで何コマも続いたかと思えば、ページをめくった瞬間、脈絡のないコマが突然挿入されていて、はっとすることもしばしば。
この唐突さは意図したものだと思うんですが、不安や焦燥を伝えることを意図しているのだとしたらそのもくろみは見事達せられている、と言っていい。
技法なのか、資質なのか判別つかないあたりがシュールさに拍車をかけてるんですよね。
正直ストーリーは単純で、ショッキングな展開はあるにせよ、起伏に乏しいシナリオだと思うんですが、これはマンガと言うメディアでしか表現できない薄気味悪さだと私は思いましたね。
物語の体裁を壊すことなく、前衛を足がかりにした異形の一作。
得体の知れない怖さがあります。
ちょっとこれは誰にでも描けるものではないと思う。
それほど画力は高くないんですが、乾いた質感の線の細い描画も含めて倉多江美という漫画家の独自性なんだと思います。
一読の価値あり。
コメント
[…] 異色作「エスの開放」につながるような試みはまだ見受けられず、作者自身があれこれ試行錯誤をしているような印象も受ける一冊ですが、意外に手広くなんでもやれる漫画家であることを知らしめてる内容ではありますね。 […]
[…] エスの開放みたいな人の内面に切り込む作風から、笑いに走るようになった、というのは興味深くもありますね。 […]