1977年初出 光瀬龍/萩尾望都
秋田文庫
このようなド級のSFが少年チャンピオンに掲載されていた、というのが驚きですし、しかも作画が少女マンガ界の生ける伝説、おモー様である、ということも今となっては二重にびっくりだったりします。
はっきりいって、かなり難解です。
この世界を外側から支配する超越者と、歴史上の人物であるプラトン、ナザレのイエス、ブッダ、阿修羅王が、宇宙の創世と終焉をテーマに時空間を超えて闘う、という内容で、本気で集中して読み込まないと途中で振り落とされること間違いありません。
恐ろしく壮大なスケールの作品です。
まあ、どう考えても少年誌でやるような企画じゃありません。
ところがですね、この作品の連載が開始されるや否や、全国に熱烈な阿修羅王ファンが増殖した、というのだから昔の中高生というのは凄いなあ、とつくづく思います。
見知らぬ物語を希求する想いが今よりも強かったのかもしれませんね。
多分現代なら商業誌で連載なんて絶対ありえないと思う。
ちなみに私は先に光瀬龍の原作を高校生の時に読んだのですが、もうね、全然意味がわからないんです。
下敷きになっているのは仏教的世界観だと思うんですけど、仏教自体なじみがなかったものだからそれを宇宙規模で展開されてもね、ごめんちょっと辞書もってきて、の世界です。
後にこのマンガ版を読んで、やっとちょっと意味がわかってきた、ってな按配。
今の若い人がこれを読んでどう思うのか、全く想像は出来ませんが、ひとつだけいえるのは、本物のSFとはこういう作品の事を言うのだ、ということ。
自分がいかに手の届く範囲のことで視野狭窄に陥っているか、読み込むほどに痛感するのでは、と思います。
私はマンガ版のラストシーンで、脳天をハンマーでぶったたかれたかのような衝撃を受けました。
特に最後のヒトコマのモノローグ、鳥肌ものです。
小説版にそのような記述はなく、萩尾望都の天才ぶりがうかがえる一文です。
国産SFの歴史に楔を打ち込んだ傑作でしょうね。